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「山」 にまつわる小品集 その弐

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 気象庁に勤めていた新田次郎は、自分の経験を踏まえた富士山にまつわる物語をいくつか描いている。
 厳しい気象条件の中、富士山測候所を命と執念をかけて作る男たちの物語『富士山頂』。ヘリコプターに吊り下げた屋根を建物に乗せる場面は圧巻である。
 それ以前に、粗末な設備の富士山頂で気象観測に取り組んだ、野中夫妻の話『芙蓉の人』。
 彼自身は登山を趣味にはしていないが、富士山頂には幾度か登って、実際冬の気象観測も経験しているので、描写に力がこもっている。

 富士山信仰は江戸時代に盛んであったが、富士講でのいくつもの派閥に分かれたその教祖のひとり、油屋身禄が岩屋に籠って菩薩となった実話『富士に死す』は私の作品『即身仏』のヒントになっている。

 日露戦争前、新田次郎の描写によれば人体実験的な、すさまじい自然との闘いで多くの若い兵士や士官らの命を散らした『八甲田山死の彷徨』。ひとりひとりの死にゆく様が心を打つ。
 無論すべての作品はフィクションであるが、綿密な取材をし、事実に近付けた物語であればこそ、より強い感銘を受けるものだ。

 長編・短編、数多くの作品を残しているが、山岳を舞台にジャンルも多岐にわたっている。
 私もそれにあやかりたいものだと、今それに挑戦しているところである。取材もせず、あまりにも短すぎる作品ばかりではあるが・・・自己満足だけのものと自覚している。
 しかし、新田次郎の作品が、人生を変えるほど私を動かしたように、私の作品がだれかを動かすことはないだろうか。ほんの少しでいいのだが。

 オーロラはまだ観ていない。
 余命少なくなった時に観に行くことに決めている。
 もし、それがかなわないことになったとしても、それは構わない。残念がる私は存在していないだろうから。


                      2011.6.16