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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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科学少女プリティミュー

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第1話_蜘蛛男だよプリティミュー!


 なんだ、なんだ、なんだーっ?
 空の彼方に躍る影!
 白衣を着こなした眼鏡少年は高精度スコープから目を離し、背の高い草むらに潜んでいる制服姿の少女に顔を向けた。
「バイト君、さっそく仕事だよ」
「任せておいて……なんていうわけ、ないでしょ!」
「ノリツッコミができる余裕があるのなら平気さ」
 名前すら覚えられてないバイト君――ミユは雇い主の自称天才科学者アインを睨みつけた。
 自分よりも年下の少年にこき使われる原因はこれだ。
 ミユの腕にはめられたブレスレットに輝く赤い光。これが宝石だったらいいのだが、起爆装置のライトだから、どーにもこーにも雇用主に逆らえない。
 このライトが早く点滅したら危険信号。
 点滅が止まったらドーンと一発、真っ赤なお花が咲いてしまう。その後は美男美女が手招きする花畑に直行便だ。とてもじゃないけど笑えない。
 郊外に存在する草ボーボボーの池。そこに二人は潜んでいる。目的は狩りだ。
 白衣と制服の二人組みが狩るのは鳥ではない。空を見ているが鳥ではない。とにかく鶏でもない。
 再びスコープを覗いていたアインがゆっくりカウントをはじめる。
「五〇〇メートル……四〇〇……三〇〇、準備はいいかい?」
「てゆーかよくない、ダメ、むしろムリ」
 ミユが装備しているアイテムは虫取り網。ちょっぴり改造が施してあって、ボタンひとつで網に電流が流れる仕掛けになっている。
 一方、アインは白衣のポケットに手を突っ込んで突っ立てるだけ。労働する気ゼロ。そのためのミユだ。
「バイト君、出動だよ!」
 さっきまでアインがスコープで観察していた物体はすぐそこまで迫っていた。
 目で確認できるその物体はブーメランみたいに回転するカメだ。いや、カメラ?
 甲羅に一眼レフのカメラレンズを乗せたカメ。
 カメとカメラの合体生物――巨大珍獣カメラだ!
 回転しながら池に着水したカメラの全長は五メートル以上。
 ――虫取り網より大きいジャン!
 ミユの顔は痙攣していた。
「だからムリ。だってこの網でどうやって捕獲しろっていうの!」
「そこはバイト君の努力でカバーしてくれたまえ」
「努力でカバーできる問題じゃない!」
「さあさあ、早く捕獲に向かわないと起爆スイッチを手動モードで爆発させるよ」
 人を人だと思ってないアインの発言。
 爆死で儚く死ぬか、カメラと戦って戦死するか……。
 どっちも嫌だ!
 だが、ミユは虫取り網を高く構えて池に向かって走る。
「電流で気絶させれば勝てる……かも」
 ヤケクソで突っ走るミユにアインは軽く手を振り、爽やかな笑顔で勇者を見送った。結果にはそれほど興味がないので、すぐにアインの視線はミユから外される。
「さて、ワトソン君に電話でもかけるかな」
 アインが背負っていたランドセルが駆動音を響かせ、稼動したギミックからヘッドセットが飛び出してアインの頭に装着された。
 ヘッドセットに付属したマイクにアインが話しかける。
「ワトソン君、頼んで置いた例のブツは手に入ったかい?」
《それがにゃ……あれでにゃ……そうなんだにゃ〜》
 ヘッドホンの奥から聴こえてきたのは幼い少年の声だった。しかも、なにか言葉に詰まった感じだ。
「どうしたんだいワトソン君。課程はいいから、結論を話しておくれよ」
《ショップに行ったにゃ……》
「結論を言わない理由はただ一つ。キミの言わんとしていることは理解したよ……この役立たずっ!」
 アインの叱咤が飛んだのと同時に、ミユが宙を飛んでいた。
「助けてーっ!」
「電話中だからムリな相談だね」
 アインの眼鏡レンズは放物線を描くミユを捕らえている。
 ――あっ、落ちた。
 どこかで生々しい落下音が聴こえてきた。
 そんな状況でもアインは動じなかった。
「あの高さから計算して、良くて重症、悪くて即死かな」
 なんてことを呑気な口調で言い、もうかしちゃって……なミユを放置すると、池で海水浴するカメラに視線を向けた。
「バイト君も死んじゃったし、どうやって捕獲するかな?」
 まだミユは死んでない……たぶん。
《どうしたにゃ?》
 まだワトソンとの通話は通じているらしい。
「それがだねワトソン君。バイト君が高度十五メートルから落下してね、カメラの捕獲はできなないし大変なんだよ」
《ミユさんが落下にゃ!?》
「そんなことはたいした問題ではないよ。それよりもボクって肉体労働苦手だろ。だから今回の捕獲はあきらめることにするよ」
 ランドセルのサイドのフックに掛けてあった手榴弾を手に取り、ピンを抜いてカメラに向かって投げた!
 池が水しぶきを上げて大爆発。
 ついでにカメラも大爆発。
 ボルトがクルクル回って飛んできて、アインの足元に落下した。
「ふむ、捕獲には失敗したけど、破壊には成功したね。さてと、バイト君の様子でも見に行くかな」
 軽い足取りでアインが向かった草むらで、ミユがうつ伏せに倒れていた。右脚が明後日の方向に曲がっているのがチャームポイントだ。
「ワトソン君、聴いているかい?」
《にゃに?》
「緊急搬送と手術の準備を頼むよ」
《わかったにゃ》
 ――数分後、アインはこの場でヘリを出迎えたのだった。

 ネットで見つけた求人広告をプリントアウトし、それを片手にミユはビル郡が見下ろす街を散策していた。
 魔導と科学の融合で生まれた魔導炉により、膨大なエネルギーが二十四時間、止まることなくエネルギーが帝都エデンに供給される。この街に昼も夜もない。
 昼は繁華街。
 夜は暗黒街。
 陽が昇っている昼でも、帝都一の繁華街であるホウジュ区は危険に満ち溢れている。
 リニアモーターカーが停車するギガステーションがあることから、都外からの観光客の多いこの街だが、一歩裏路地に足を踏み入れれば命の保障はない。観光客の女性が行方不明になるニュースなんて珍しくもないのだ。
 ミユは裏路地の入り組んだ路を歩いていた。
 空を見上げると、ビルとビルの間を繋ぐように、右往左往に伸びるパイプ管が目に入る。都市から供給されるエネルギーを盗むためのものだ。
 細い路地を奥へ奥へと進むと、金属の扉がミユの行く手を阻んだ。
 扉にはプレートもなにもついておらず、その先になにがあるか示すものはなにもない。透視能力があればきっと中を視ることができる。が、ミユにそんなエスパー能力は当然なかった。
「本当にここかな……」
 不安を呟きながらミユは辺りを見回した。
 バイトの求人広告を見つけ、考えなしにぶっ飛んできた。
 が、今に思ってみれば怪しすぎる。
 この陰湿な空気を孕んだ裏路地。
 汚れた地面に雑菌細菌がどれほどいるか、考えただけで身体が痒くなる。こんな環境を好き好むのは昆虫戦士Gだ。
「こんな場所に月給一〇〇万のバイトなんてあるわけないじゃん」
 と言いつつも、ミユの指はインターフォンを押していた。一〇〇万円の恐ろしい魔力だ。
 小型ディスプレイにノイズが映り、スピーカから音声だけが聞こえてきた。
《訪問販売ならお断りだにゃ》
「そうじゃなくて……」
《宗教の勧誘なら、おいらの飼い主は科学狂だにゃ》
「バイトの募集してましたよね?」
《にゃんにゃん、よくきたにゃー。どうぞ中に入るにゃ》