小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【第二回】届け恋の光合成

INDEX|1ページ/9ページ|

次のページ
 
「でっかく育ったなぁ…」
「僕より大きくなっちゃったね~」
夏休み目前の日曜日栄野家の庭先では京助がホースで水をまき悠助がそれを手伝って(邪魔して?)いた
「こないだまで双葉だったと思っていたのにもう花咲きそうでやがんの」
栄野兄弟が『大きくなった』といっているのは初夏に悠助が植えた向日葵のことで鉢には【ヒマ子さん】とかろうじて読める悠助のミミズ文字で書かれていた
「それはアンタが世話してなかった証拠でしょう?」
背後から母ハルミのごもっともな意見が飛んできて後頭部に容赦なくグッサリとつき刺さった
京助の母、ハルミは一見おとなしそうでおっとりしているような印象の大和撫子風の日本美人だがその性格は日本男児顔負けである
女手一つで兄弟を育てているということもありかなり気が強く結構口も悪く人使いも荒い
「部活だか補習だか知らないけど休みの日くらいは家の手伝いはやってもらうわよ?水まき終わったら境内の拭き掃除お願いね? 掃き掃除は緊ちゃんがやってくれているはずだから」
「…ヘイヘイ…;」

ゴン

京助の後頭部に今度は缶ジュースが勢いよくめり込んだ
「…返事はハイと一回気持ちよく!! …水まき終わったらそれ、緊ちゃんにも持っていって拭き掃除の前に一服しなさい」
挙句躾にも厳しい…が優しい所はきちんと優しかった
「京助たんこぶ~」
後頭部を抑えてしゃがみこんでいる京助の頭を悠助が泥だらけの手で笑いながら撫でている
足元では京助が手放した暴れホースでコマとイヌが水をかぶりながら遊んでいた
「ったく…; あ~痛ぇ…」
立ち上がった京助は再びホースで水をまき始める
悠助も小さな自分のじょうろに水を入れて【ヒマ子さん】にかけている
「綺麗に咲くといいな」
ある程度水をまき終えた京助はホースを片付けながら悠助に声をかけた
「明日に咲く? 明後日? 僕早くヒマ子さんの咲いたところ見てみたい~」
「来週中には咲くんじゃねぇかな…ホラ、蕾開きかけてるし…ブッ!!;」
と京助がヒマ子さんに顔を近づけたときいきなり強い風が吹き京助はヒマ子さんの頭突きを顔面で受けた
「…今日は…首から上に注意報発令か?;」
後に缶ジュース、前にヒマ子さんの頭突き…朝っぱらから災難が頭だけに降りそそいでいた

「もうちょっと静かに着地できなかったんですか? 結構風起きちゃいましたよ?」
「出来ないこともなかったがな…どんくさい輩のことだ気にも留めぬであろう」
緑豊かな栄之神社の中で最高樹齢の御神木『しんちゃん(悠助命名)』の中枝から微かに聞こえる会話
「まったく…迦楼羅はそんなだから階級高いのに子ども扱いされるんですよ」
【迦楼羅(かるら)】と呼ばれた目つきの悪い少年(?)はムスっとしてもう一人の少年を睨んだ
「ワシに指図するな!!」
迦楼羅が声を張り上げるとその髪についていた赤玉の飾りがはずれはるか地面へと落ちていった
「大体! 乾闥婆はあーだこーだいちいちこまかいのだッ!!」
迦楼羅に【乾闥婆(けんだっぱ)】と呼ばれた少年はしれっとした顔で
「迦楼羅が大雑把過ぎるんですよ。ほっといたら食事もしないじゃないですか」
と言い放った
どうやら二人とも落ちていった飾りのことは気づいていないらしく口げんかに夢中になっていた

悠助と共に緊那羅がいる境内へとやってきた京助は御神木の葉がやけに落ちていることに気が付き近づいて上を見上げた
「…さっきの強風で飛んだんかなぁ…」
葉の間から夏の日差しが射し地面に微妙な文様を作っている
「…さっき掃いたばっかりだっちゃのに…;」
独特の『~ちゃ』(キンナラムちゃん語/命名坂田)を語尾につけ、ため息混じりに緊那羅が境内の方からやってきた
片手に箒を持ち片手で悠助の手を引いている
緊那羅が栄野家に居候するようになって一週間が経過していた
あの演劇部のような服ではさすがに目立つということで京助の服を着ている
ここの生活にも慣れてきて『働かざるもの食うべからず』という母ハルミの一言で神社の手伝いをするようになったらしい
「…掃きなおさないと駄目だっちゃね…これは」
「僕も手伝う~!!!」
緊那羅が箒を持ち直しザカザカと葉を集め始めると悠助も手で葉をかき集め始めた
「ストーップ!」
とそこに京助が割って入り緊那羅の頬に缶ジュースを付ける
「暑い中ご苦労サン、ここらで一服してくれって母さんが」
「一服…」
緊那羅は缶ジュースを両手で受け取ると上から下から…色々な角度から不思議そうにそれを見た
どうやら開け方がわからないらしい
「京助、コレ…」
「あぁスマン、こうやって開けるんだ」
カシ、と京助がタブを起こして開けてみせると緊那羅もタブに手をかけた
「緊ちゃんのファンタ(グレープ)だね」