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狼の騎士

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 数歩進んだところで、林のあいだから動くものが見えた。とっさに太めの木に身を隠し様子を窺う。
 兵士が数人。見慣れぬ薄い青の軍服だ。皆剣を手にし、同じほうを向いている。彼らの目線を追ったが、手前の木の影が邪魔し、誰がいるのかはわからない。しかし、ゼルには予想がついた。黒のような青い大きな布地が揺らいだのまでは、邪魔しきれなかったのだ。
(おい、まさかあそこにいるのは)
 兵士の一人が突きを繰り出し、相手はそれを防ごうと動く。そこへ別の一人が剣を向けた。二人目の防御まで間に合わなかったらしく、一人で大勢を相手にしていたその人物の脚を手ひどくえぐったようだった。後退し、膝を折った男は、間違いなくフェルティアードだった。
 目の前のことが信じられなかった。やはりエアル兵は近くにいたのだ。やつらの闘い方から見ても、正々堂々と対する気はないらしい。人数が多いのをいいことに、隙を突いて脚をやるなんて。あのフェルティアードでも、多勢に無勢となれば長くは持たない。
 エリオが順調に味方に伝えられたとしても、今すぐ来ることはあり得ない。だがここで自分が出て行っても、すぐに片付けられて終わりだ。いや、ここは剣だけを渡してその場から去れば、半分はおれを追いかけてくるかもしれない。
 そんな案を思いついた瞬間、ゼルはあることに気付いた。膝をついたまま、フェルティアードが動きを見せない。兵士が一人、すぐ前に立っているというのに。
 フェルティアードは両手に短剣を収めていたが、あの距離では防ぐには近すぎる。兵士が剣を引くのが、ひどくゆっくりに思えた。
 殺される。皮手袋の上から爪が食い込むほど、ゼルは石のように拳を固めた。足音も茂みを掻き分ける音も構わず、一直線に走り抜ける。対峙した二人の隙間を埋めるように地面を蹴り飛び入ると、敵の剣に自分の武器を叩きつけた。乱入者に驚いたのか、敵の兵士は剣技など何もない力だけの衝撃に負け、得物を取り落としている。ゼルはそんなことに一喜一憂する間もなく、剣先を敵兵に突きつけていた。
作品名:狼の騎士 作家名:透水