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鴉1 「石原法律事務所」

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罪―つみ:法律・宗教・道徳に背く行い。



不景気、政治家の不祥事、国際問題、人権問題、年金問題、
法律、道徳、マナー、掟をつくり、法の元人の罪を裁くはずの政府が
問題だらけのこの国。
解決策は迷宮の中に沈み、もやは落ち行く一方の国を
支えるトップたちは毎日口だけは仕事熱心。
街行く人はどうせ・・・と諦めをため息に乗せて吐く。


この国の裏側にはその問題を利用し、
馬鹿にした連中が笑っている。
何万人と行きかうスクランブル交差点の中、
古くからの商店街の中、ファミレスの中、
何処にもかしこにも、その本性を隠した魔物たちが息をして、
太陽にそっと背を向けていた。

罪を犯した者達が逃げるように飛び込む、
小さな裏の世界は、何時しか太陽さえも飲み込んでしまう
程の闇に姿を変えてしまっていた。
静かに卑しく表の世界に手を伸ばし、太陽に愛される人を
闇の中へと引き込む。
寂しさ故に、怖さ故に、羨ましさが妬みに変わった、
罪人達を一体誰が裁けようか。


人が人を裁くならば、闇を裁くのは闇であるはず。

暗い闇の中、罪を背負った魔女は笑った。


*


都内のとある高級マンションの一室に罪を背負った男が住んでいた。
一度でも命を奪えば、永遠と命を狙われ続ける。
そんな世界に自ら足を踏み入れた男は、
裏の世界の顔を隠すために始めた小説家という仕事に
精をだしていた。


「さーそっり!!」


締め切りに追われパソコンのキーボードで
画面に文字を打ち込んでいると突然
背中に激痛が走る。後ろから首に手を回された黒髪の蠍と呼ばれた
男は目線を向けることなく、再度キーボードを打ち始めると
後ろの少年に短く「なんだ?」と返す。


「お腹空いたー!」
「さっき昼食を食べたばっかりだろ、
 それに棘、俺は今仕事・・・っ!?」


蠍が少年の名を呼んだ瞬間、首に回っていた少年の手が
離れ蠍の頭を掌で思い切り叩く。
その衝撃で蠍のメガネも勢い良く蠍の顔から
離れキーボードの上に落ちた。


「まったく何回言ったら蠍は覚えるの!?
 イバラで呼ばないでよ!僕の名前はローズ!」
「・・・悪かった、ローズ。」


ローズは腰に手を添えて鼻から大きく息を吐いた。
その後もブツブツと言っているようだったが、
何かを思い出したように目を見開くとすぐに
蠍の首にまた手を回しだらけ始めた。
発せられた言葉は先ほどと同じ空腹を訴えるもので、
蠍は仕方がなく仕事を中断し、キッチンへ向かう。

まったく、一時間前に昼食を済ませたばかりだと言うのに・・・

冷蔵庫のドアを開け、食材を選んでいると
廊下からリビングへ繋がっているドアの開く音がする。
隣で蠍の服の端を掴みながら催促をしていたローズが
ドアへと身体を向かせるとそこには、真っ白なスーツを着た
男が立っていた。


「ブンちゃん、おはよう!」
「おはよう、ローズに蠍。」


ブンと呼ばれた男は紫色の髪をかきあげながら
ヘラヘラと笑いローズと蠍に挨拶をする。
長い足をローズの方へ進め、少年の頭を軽く撫でると、
少年の空腹を満たすために支度を始めた蠍の
横に立ち、出来ていく料理を指で二口ほどつまみ、
その味を堪能したら、すぐにまた廊下へと行ってしまう。


「もう、行くのか蜂。」
「うん、今日は同伴出勤なんだ。」

少年にブンと呼ばれた男の実の名蠍が呼ぶと、その顔をさらに厭らしい笑みで一杯にし
こちらを振り返りながら、片目を細めバイバイと言い長身の男は
家を出て行く。蜂は歌舞伎町に構えるホストクラブのナンバー1ホスト。
普段は夕方近くに家を出るが、本日は客とデートをしてからの出勤らしい。
蜂の姿が見えなくなった途端に、少年の催促は先ほどの倍に
なり、半分貶されながらも蠍は少年の嫌いな野菜を一切使っていない
料理を完成させた。それを嬉しそうに頬張る姿を見ながら
どうやったら、この少年に野菜を食べさせることが出来るだろうかと、
頭を抱えるものの、子育てのプロの母親達だって常日頃悩み苦しむと
言うのに、母性などありはしない、
硬い自分の頭では手も足も出ないことに気付く。

この少年が蠍の元に来たのは数年前のこと、
色々と事情があって蠍が面倒をみることになったのだが、
それ以来、蠍の悩みは尽きない。
一般教育を全く受けていないローズとの生活は何もかもが
初めてで、今のペースも本当につい最近出来上がってきたものだった。
皿の上の料理を綺麗に食べつくした少年がテレビの電源をいれ、
ソファにダイビングしたのを見届けた蠍は時計に目をやる。
午後1時30分。仕事の締め切りまであと3時間。
頭を抱えながら蠍はリビングを後にし、自分の部屋で
先ほど少年によって中断された仕事を再開する。
己の描く世界の女性は男の3歩後ろを歩くような女性ばかりだが、
現実世界の女はそこまで健気でおしとやかではない。
原稿を時間までに仕上げなければ鬼のように怒り出す担当の
顔を思い浮かべ、蠍はせっせとキーボードを叩く。


蠍が仕事に戻ったのを背中で感じながら、
ローズはテレビのチャンネルを順番に回していた。


『本日のゲストは、モデルから俳優までこなすイケメンタレントです!!』


テレビから流れ出る言葉にローズはチャンネルを回す手を止め、
リモコンをソファに置く。始めは四角い箱の中に人間が住んでいるのかと
思っていたテレビだが、蠍によって仕組みを教わり、
今では世界を映すこの箱に夢中になっていた。


『登場してもらいましょう!Mituさんです!!』


司会者が名前を呼ぶと、画面はゲストの足元から
順々に上がっていき、最後にはその綺麗な顔を映し出す。
青い髪に紫の瞳、神秘的と思わせる容姿は一見、
年齢も性別も判断に迷うほどであった。

「みっちゃんだ。」

ローズは身近な人間の姿をテレビで確認するのが好きだった。
最も確認するのはこの青年、人気雑誌のトップモデルを勤める
蜜だけなのだが。


『Mituさん、おモテになるんでしょう?』
『当たり前なこと聞くなや、ソレこそ俺を取り合って
 女が戦争起こすくらいには、まぁ・・・モテるんとちゃうん?』


容姿からは想像できない口の悪さと、
自身満々な発言。このギャップが良いのだと
今ではテレビにも雑誌にも引っ張りダコで、
女性ファンが殺到しているというのだから、
世の中にはなかなか変わっているものだ。

テレビに映ってもいつもと変わらない知人を
ジッと見ていたローズだが、段々とテレビから流れる音が
子守唄になっていく。
さらに窓から入る太陽の光に身体を温められ、
ソファの上で昼寝を始めてしまった。


*


朦朧としている意識が徐々にハッキリしだす。
すると人の声が近くに聞こえることに気がつく。
いつの間にか自分にかけられた毛布を払いながら
ローズは上半身を起こした。


「ローズ何時まで寝てんねん。仕事やぞ。」


眠い目を擦って周りを見渡すと、
蠍、蜜、蜂が既に支度を整えて揃っていた。
ローズは金の髪を揺らし、ソファから降りると
3人のほうへ向き直り無邪気な笑顔を見せる。


「うん!行こう!!」


彼らはこれから仕事へと向かう。
作品名:鴉1 「石原法律事務所」 作家名:楽吉