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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第一回】 始まりはエビフライ

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緊那羅の子守唄

「緊ちゃんって歌うの好きなの?」
緊那羅が栄野家で過ごし始めて4日目、風が気持ちいい土曜日の夕方のことだった
母ハルミは婦人会の旅行計画の打ち合わせとかなんとかで出かけていて京助は学校から今だ帰ってきていなく栄野家には悠助と緊那羅(きんなら)、コマとイヌしかいなかった
縁側で何をするわけでもなくボケっとしていた緊那羅は悠助の声で振り向いた
「歌、上手だねっ」
「え…私…歌ってたっちゃ?;」
よいしょ、と隣に悠助が腰を降ろした
「僕もねぇ歌好きなんだー昨日もね校歌歌ったんだよ~」
エヘヘっと笑いながら足をブラブラ揺らした
「ハルミママの歌も好きだけど僕緊ちゃんの歌も好きになったよ?今歌っていたのなんていう歌?」
「う~ん…無意識に歌っていたみたいっちゃから…わからないっちゃ;」
緊那羅が申し訳なさそうに苦い笑みを返した
「えぇ~…むぅ~…」
悠助が頬を膨らませてちぇ~っとそっぽを向いた
「ごめんだっちゃ;」
緊那羅が謝ると
「そうだ! じゃあ緊ちゃんが一番好きな歌教えて? っていうか歌って~聞きたい~!!」
悠助が緊那羅の体を揺すってせがんだ
「ん~…; 一番好きな歌…だっちゃ?」
顎に手をかけて考え込んだ緊那羅を期待一杯の目で悠助が見つめる
「じゃぁ…」


歌を歌うときは何を考えて誰を想い声を出すのだろう

優しい気持ちで歌う歌は、憎いという気持ちで歌う歌は…


「それ、子守唄かなんかか?」
片手にタオルケットを持ち京助が『よっ』と手を上げた
「京助…? あれ?;」
太ももに温かいものを感じて目をやると悠助が寝こけていた
京助はしゃがんで寝ている悠助にタオルケットをかけてやると悠助が微かに動いた
「鳥居くぐったらさ歌聞こえて…そこの茂みから覗いたら悠は寝てるしお前は熱唱してるし…」
京助が伸びをして緊那羅の横に座る
「さっきも聞いたけどその歌って子守唄か何かか?」
「私もよくわからないんだっちゃ; ただ悠助に一番好きな歌歌ってくれって言われて…そしたらこの歌が自然と…いつ、誰から教えてもらったのかわからないんだっちゃ…でも何だか…」
緊那羅が悠助の頭を撫でると悠助がモゾモゾと動いて起きるかと思いきやまた寝息をたてだした
「ふぅん…でもさ、俺もその歌好きかもしんねぇわ。なんつうか…嫌なこと忘れそうになるっつうか」
足の裏と足の裏を合わせながら京助が照れくさそうに言った
「とにかく俺、緊那羅の歌好きだぞ」
「あ…りがとだっちゃ…」
悠助だけではなく京助にも歌が好きといわれ緊那羅が照れて俯くとそれを見た京助が
「さ~て…そろそろ母さん帰ってきますかねー…っと」
言ってから恥ずかしくなったのか京助はすっくと立ち上がると家の奥に入っていった

「……栄野…京助、悠助……」
風鈴がチリリ、と鳴った
緊那羅が薄暗くなってきた空を見上げると一番星が見えるようになっていた