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秘密の花園で待つ少年 ~叔母さんとぼくの冒険旅行~

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プロローグ



 ぼくの小学生生活、3年目の夏休み直前。太陽はまぶしく輝き、クーラーは快適すぎる季節になってきた。
「お、鹿朗。おかえりぃ。」
 学校から帰ると、干上がりそうなぼくの目の前で、ぼくの叔母である万理おばさんが氷のいっぱい入った麦茶を片手に、団扇であおぎながら出迎えてくれた。
 万里おばさんは、三十代にして独り身、週に何度も夕飯やおやつを食べに家に遊びに来るのだが、今日もおやつが当たるのを当然のように期待して居間に上がりこみ、テレビのチャンネルを変えながら麦茶を飲んでいる。
 もちろん、ぼくの分の麦茶なんて用意してくれない。
 自分の分を持って来ようとランドセルを下すと、「おかえりなさい」と、お母さんがおやつと麦茶を持ってきてくれた。
「学校はどうだった?宿題はおやつを食べてからでいいからちゃんとやりなさいよ」
「うん。わかった」
 お母さんは、頷くぼくをじっと見て、おばさんに向き直った。
「万里、お願いがあるのよ。この子の夏休み始め二週間でいいの。あんたの家で面倒を見てってやってくれない?」
 おやつのイチゴのショートケーキ2人分とぼくの麦茶を居間のテーブルに載せて、ぼくの母さんは万里おばさんに言った。
「……! 育児放棄?」
 ボソッと呟いた叔母さんを一瞬、睨みつけるように一瞥すると、すぐに呆れた様子で母さんはため息をついて言った。
「変な言い方しないで頂戴。うちの人は出張でしばらく留守にするし、私も会社の研修でどうしても家を空けるのよ。鹿朗はしっかりした子だけれど、まだまだ小学生だから、やっぱり心配で…。その点、暇なあんたのところならご飯食べさせてもらえるし、勉強も見てもらえて遊びに出ても帰れば引き篭もりのあんたは絶対家にいるでしょう?」
「引き篭もり言うな! 執筆活動よ!これでも仕事してんの。しかも、勉強を見ろ?それぐらい自分でやらせなさいよ!」
 叔母さんは吼えたが、ぼくも母さんも信じない。
「執筆活動ねぇ…いいじゃない。しょっちゅうウチに遊びに来ているでしょう。」
 叔母さんは、売れないライトノベル作家だ。
学生の時に投稿した小説が賞を取ってデビューしたのだが、それほど売れてはないらしい。
一度、デビュー作を読ませてもらったことがあるんだけど、萌え萌えな(おばさん曰く)魔法使いが古代文明の遺跡から発掘されたロボットを操って、宇宙から飛来してきた謎の生命体が乗り移ったゴーレムと戦い、地球を守るという学園恋愛ものらしいのだが、サムライと少女銃士のコンビだとか、必殺技が巨大聖杯の殴打だとかごちゃごちゃしていて、読み終わったあとの疲労感が凄まじかったのを覚えている。
デビューできたのが不思議なくらいだ。
それでもなんとか今でも細々と仕事を続けているようだけど……本当かどうか怪しい。

「母さん。別に叔母さんの家に行かなくてもいいよ。ご飯ぐらい自分でなんとかするし…というか、おばさんところでも食べられるかどうか…」
「ちょっと!失礼なこと言わないでよ。これでも一人暮らしで三食しっかり作っているのよ。一人増えたぐらいなんてことないわよ!」
 かなりの頻度で家にご飯をたかりに来る叔母さんは、小学三年生の甥にまで自分の生活態度についていちゃもんを付けられ、即、反発した。
その様子を見たお母さんはニッコリと微笑むと、満足げに頷いた。
「良かった。私もそこを心配していたのよ。ご飯とお風呂くらいの面倒でもいいから見ていてもらえば大丈夫だから。頼んだわよ。万里」
 しまった…と苦虫を咬んだような顔をして振り返った叔母さんを後に、お母さんは台所へとそそくさと姿を消す。
 返事は聞かないつもりだ。
「もう! ケーキで懐柔できるとでも思ったの?!冗談じゃないわ!こっちだって都合ってもんがあるのに…」
 そう言いつつ、フォークでケーキを突き刺した。勢いでイチゴの液体と生クリームが飛び散る。
 何だかんだ言って結局ケーキは食べるんだ。
「都合って?無理ならいいよ。食費だって馬鹿にならないでしょ?」
 3口でケーキを食べきったおばさんは、ぼくを睨みつけると、麦茶を一気に飲み干して立ち上がり、ぼくの鼻先に人差し指を突きつけて言った。
「こうなったらオバちゃんの懐の深さを見せ付けてやるわよ!」
 と、訳の判らない捨て台詞を吐いて、ドシドシと大股で家を飛び出して帰ったのだった。