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約束の場所

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 ジーンズに付いた汚れを払いながら、貴久が車を指差す。
「うん!」
 兄の帽子をかぶり直して、貴久の後を追った。
「どこまで送ればいい?」
 シートベルトを締めるボクに貴久が問い掛ける。
 貴久は兄を知っていた。という事は、あの建物がボクの家じゃない事は知っているってことだ。
「……病院、まで……」
 貴久は黙って頷いた。
  
 ――――――――――――
  
「……病院まで……」
 ユウキが、申し訳無さそうに呟いた。
 そっか、あそこって……。だから、“パジャマ”だったんだな……。
 黙ったまま病院までの道を戻る。何も言わない。今は、両親に掛ける言葉を考えればいい……、そう思ったから。
 やがて、花畑の真ん中に建てられた白い病院が見えてきた。花畑を通り抜け、病院の玄関が見えてくる。と、圭祐の……ユウキの……両親の慌てる姿。
「ほら、急げ!」
 駐車場まで行かず、途中で止めてユウキを追い出す。
「貴久、これ……」
 ユウキがパーカーを脱ごうとするのを
「やるよ」
 “早く両親の所へ行け”と止める。
「……でも……」
「入学祝に持ってけ」
 “え?”と一瞬俺を見るが、すぐさま、
「……ありがと……」
 と微笑む。その笑顔。もう、大丈夫だ。
 ユウキが両親のいる玄関へと向きを変えた。
「おい!」
 呼び止め、そっと耳打ち。
「……うん……」
 ユウキの頬が赤く染まった。
  
 ――――――――――――
  
 車を降りて、両親の所へ走った。
「どこに行ってたの!?」
「心配したんだぞ!!」
 ギュッと抱き締めて、両親が言う。
「……ごめんなさい……」
 “とりあえず、病室に戻りましょう”と看護師に促され、自動ドアをくぐった。
「あら? その上着は?」
「貰ったの……。入学のお祝いに……」
 そう言って、玄関のロータリーを回る車に手を振る。
「誰から?」
「……内緒……」
 きっと、また会えるから、その時に……ね。
「お兄ちゃんに会ったよ、私……」
 両親が驚いたように顔を見合わせた。
  
 ――――――――――――
  
「今度は、ワンピ着て来いよ、優季。デートしようぜ。あの場所で」
「……うん……」

作品名:約束の場所 作家名:竹本 緒