約束の場所
親友が死んだ。
高校時代に出会って、すぐに“こいつだ!”って直感した、あいつが死んだ。
事故だった。
アメリカに赴任中だった俺に、
『すっげぇ綺麗な夕陽が見えるとこ見つけたんだ。水平線に沈んでくんだけど、空と海の真ん中に消えてく夕陽が抜群でさ!』
携帯の向こうで興奮していたあいつ。
『五月には帰って来るんだろ? そん時に案内してやるよ』
話したのは一ヶ月前。それから三日後、あいつはいなくなった。
事故の詳細は分からないが、あっと言う間だったとあいつの両親からの手紙にあった。痛みも苦しみも無かったのなら、それが救いだ。
帰国後すぐに、あいつの家を訪ねた。両親とあいつと年の離れた妹の四人家族。家を訪ねたのはこれが初めてだ。出迎えてくれたのは、母親。
「これ、貰って下さるかしら?」
そう言って一枚の写真を手渡された。赤く染まった空とそれを映す海、真ん中には眩しい太陽。カメラマン志望のあいつが撮った、最後の一枚。
「……これ……」
受け取れないと返そうとした俺に、
「私達には、辛い思い出しかないから……」
母親が微笑んだ。
そして、今、俺はその場所に向かっている。助手席に写真を乗せて、あいつが見たのと同じ夕陽を見る為に……。
海を右手にその場所へと走る。右手に海、左手には花畑、その奥には山。花畑の真ん中には白い大きな建造物。さながら、リゾートマンションといったところだ。人気(ひとけ)が少ないのは、季節がまだ早いという事なのだろう。目的の場所は、閑静なこの一帯を抜けると間もなく見えてくる筈だ……った。
「……なんだ……?」
歩道にポツンと白っぽい人影が見えて、スピードを落とす。農作業以外の人影は、ここへ来て初めてだ。ゆっくりと近付き、助手席越しにチラリと見ると、中学生だろうか、バサバサの髪の少年が素足にスニーカーを履き、片手に黒いキャップを握り締めて歩いていた。奇妙なのは、その服装である。少し光沢のある“それ”は、どう見てもパジャマだった。
「何やってんだ?」
トボトボと歩くその姿に、つい声を掛けてしまう。
「!」
俺の声に、少年が驚いて足を止めた。慌てて俺もブレーキ。
「どこ行くんだ?」
問い掛けに真っ直ぐに前を指す。
「どっから来た?」