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ある晴れた日に

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夏の香りがする。
雨は止み、空からさんさんと光が降り注ぐ。
眩しい。
水面にはきらめきが反射し。
眩しい。
風は熱っぽさを帯びて誘惑する。

「…だるい…」

僕は机に仕事机に突っ伏して独りごちる。
猛暑は既に一週間続いている。
体力的に限界だ。
冷たいものでも口に入れたいが、最近何故か仕事がめっきり減って
ここ十七日ほど仕事を全くしていない。
我が家のお財布係担当の「彼」は毎日毎日光熱費のメーター、そして
貯金箱の中身と睨めっこをしている。
一度、

「とりあえずさ、食事を減らしたら?、僕の」

と自分でも無理な代替案を出してみたが、これには巨大な雷が落ちた。

「こんな暑い時にそんな事をしたら体力がなくなって、働きたい時に働けなくなる!」

体の心配をしてくれているのだろうか。
それとも、「僕が稼ぐお金」を心配しているのだろうか。
悩みは尽きない。

「はぁ…」

大きく溜息をつき、伸びをする。
だが、仕事がない事はいいことだ。
きっと「壊れにくい」彼らが生まれてきているのだ。
何とも喜ばしい事だ。

     ********************************************

眼前では男が恭しく紙を確認する。
ここ二週間ほどの仕事分の書類だ。
役所仕事だが、提出しなければならない。
それが教えられたルールであり、俺自身が守らなければいけないことだった。

外は随分と暑い。
彼女は、今日みたいな日はれでぃにとっては地獄だから、と部屋に篭りきりだ。
それが正解だと俺は知っている。

ここ二週間ほど。
ずっと仕事をしていた。
この暑さで、故障を多発する「機械」が増えたのだ。
仕事が増えたのはそのせいだ。

俺は、使えるものと使えないものを分け、簡単な廃棄は処理場へ持って行き、作業が終了
したら判子を貰う。
完全処理が必要なものは溶鉱炉へ持って行き、作業が終了したら判子を貰う。
全てが終わってから一つ一つの案件に関する書類を書く。
書き終えた書類を今日の様に窓口に持って行き、提出する。

本当は電子媒体が良いのだと思うが、何故か電子媒体作成しても印刷して来い、と
跳ね返される。
それがルールだ。
抵抗があったのは最初だけで、何度か繰り返していると諦めがつき始める。
慣れて行ってしまう。
この辺りは次の選挙とかの争点になるんだろうな、と考えたりもする。
だが言うだけ言ってそれで終わるのが世の常だ。
期待はしていない。

「はい終了、お疲れ様」

眼前の男が書類の確認が済んだ合図とねぎらいの言葉を掛けてくれる。
俺はペコリ頭を下げ窓口を去ろうとする。
男性は俺を呼び止めて世間話を始めた。

「お嬢様は今日は一緒じゃないのか?」
「…ああ」
「そうだよなぁ、この暑さだもんなぁ。部屋の中が正解だな」
「…ああ」

苦笑いをしながら男性は、体に気をつけろよ、と締めの言葉を伝えてくる。
俺は又ペコリ頭を下げてその建物を辞した。


空からは眩しいほどの光が降り注ぐ。
暑い、と思った。
正直、死ぬほど暑い。
だが、死なない。
まだ完全解明されていない

そういえば、何処かの村がこの暑さで全滅したらしい。
嘆かわしい事だとこの国の長は嘆きと悲しみを報道番組で伝えた。

世界から「人が減り続けている」と昔学校の教科書で学んだ。
クローン技術の発展はあるようだが、だがそれでもクローンが「人である」とは考えていないようだ。
確かに、「人の形をした人の細胞を使った」彼らは、何故か重要なところ、と考えられている部分が欠落しているようだ。
余り表には出ないが、そうあの人が教えてくれた。

「結局は紛い物でしかないんだよ。必ずあるはずの「心」が欠落して生まれてくる。ま、彼らには彼らなりの「生き方」をこっちが勝手に作ってるらしいからな。
 それはそれで、「人」の欲を満たして長生きする為のストレス解消になっているんだろうから、いいんじゃないか?」

彼らの存在は、俺たち「人」にとっての「延命装置」としか扱われない。
あの人はそう言っていた。
延命装置。
その言葉の中身をちゃんと聞いたわけではないが、何となく想像はつく。
それは、俺たち「人」が作った、彼らの「生き方」。
心がないから何も感じず、培養液の中で「その時」を只管に待つ。
待ち続けて時間が経過すれば、「新しいものへと変わる」。
そんなサイクルだ。


頬から何滴も汗が流れ落ちる。
じりじりと容赦なく切りつけてくる光の刃は、俺の露出した肌の色を少しだけ赤く染める。
体を維持する為に汗をかき、今ある「温度」を適正に戻そうと動く。
高度な計算と正確な行動。
精密さと緻密さ。
どうしたらそんなものが「生まれてくる」のだろう。
俺は不思議でたまらない。

世界は、俺たちの事を、純粋な人だと表現している。
純粋な人。
心を持って、人から生まれ人として育ち、人として塵に還る。
そんな存在は「培養」出来ない、と叫ばれている。
だが、俺は不思議でたまらない。

「じゃぁ、何故「機械」には「心」が芽生えたのだろう」

一度だけあの人にこの質問をぶつけてみた。
少し驚いた表情を見せてから、あの人は笑って答えてくれた。

「それは、淋しかったからだよ」

誰が淋しかったのか。
何が淋しいのか。
その部分に付いては何も語ってくれなかった。

胸ポケットにしまっていた携帯電話が鳴る。
この携帯電話は、仕事用の電話だ。
外に出かける時は持つように、とあの人からの助言で持つようになった。
だが彼女は携帯電話から出る電磁波に弱い為、彼女と外に出る時はなるべく持たないようにしている。
今日は彼女が居ない為、持って外出したのだ。

又仕事かと思い、一寸出るのを躊躇ったが結局出なかった。
一分ほど鳴り続け、切れる。
軽く溜息をついて、歩みを進める。

すると又携帯電話が鳴った。
今度は直ぐ切れる。
出ようと考える暇さえ与えない。

又鳴る。
今度も直ぐ切れた。
又鳴る。
切れる。
鳴る。
切れる。
出ようと思ってポケットから出す、と言う動作が間に合わないほどだ。

仕方がないのでポケットから出して待つことにする。

一分。
二分。
五分。
十分経過しても鳴らない。

悪戯電話だな、と考えポケットにしまおうとした瞬間、携帯電話が鳴った。

「は、はいっ」

何故か急いだ言葉が口をついた。

「お、おや…申し訳ありません、お取り込み中でしたか?」

相手は、初老の男性だった。
柔らかい音の響きの主を俺は知っていた。

「あ、…す、済みません…先生」
「謝らないで下さい」

見えない向こうからも彼の微笑みが手に取るように分かる。
思えば俺は、この人の怒った顔を見たことがない。
想像も出来ない。

「いえ、部屋の方に電話をしたのですが彼女が出まして。
 君に用があるならば此方に電話をした方がいい、と伝えられましてね」
「…そうですか」
「お取り込み中ですか?」
「…いえ、此れから部屋に戻ろうかと思って」
「そうですか」

俺は近くの人工的に植えられた並木の一つの下に入り、用件を聞いた。

「お忙しいとは思うのですが、一件貴方にやって貰いたい仕事がありまして。
作品名:ある晴れた日に 作家名:くぼくろ