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似たもの同士

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「じゃっじゃあ一緒に遊びましょうよ」
「幽霊と……?」
何ができるっていうんだ。
トランプ一枚持てないのに。
そこまで考えたらなんだか笑えた。幽霊とトランプしようとしてる自分もおかしいし、人間と遊びたがる幽霊はもっとおかしい。
「道具がいる遊びはできないわよ」
「あっそうか」
結局私と望さんは道具も何もいらないしりとりをすることにした。
「ゆー……ゆっ幽霊!」
「いかさま」
「ま? あっ。魔法」
「嘘」
「葬式」
「……君が代」


なんだか変な空気になったところで、望さんが「みかん!」と声高らかに言い、負けた。
しりとりで負ける人初めて見た……。いや、人じゃないが。
「怜歌さん……しりとりにあるまじき単語が沢山出てきた気が……ラッパときたらパンダかパン屋でしょう?!」
「パンツもあるけどね」
そう言うと望さんは顔を真っ赤にした。
何を勘違いしているんだろう。この変態幽霊は。
「パンツってズボンの方よ」
「!? アハハ……知ってますよぅ」
嘘つき変態幽霊。
「ていうか、【ぱ】がきてパノラマ島って言った人初めて見ましたよ!?」
「望さん記憶ないじゃない」
「うぐぅ……」
ちなみにパノラマ島というのは勿論江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」からである。
「でも記憶がないのにしりとりの常識は覚えてるのね」
私が首を傾げながらそう聞くと、望さんは変な顔になった。
「……どうでもいいことは覚えてるみたいです」
ようやくしょんぼりしていることに気がついた私は、必死でフォローをした。

「ごめんなさい」
「なんで怜歌さんが謝るんですか?」
「なんとなく」
なんとなくで女の人から謝られちゃった……。と望さんはまたしょんぼりした。
難しい幽霊だ……。
「お腹空いちゃった」
私がごろりと寝転がると、望さんはまた変な顔をした。
あぁ……幽霊はお腹空かないから。
「望さん。そういえば望さんは何が好きなの? 嫌いなものは沢山知ってるけど、好きなものは何も知らないわ」
「好きなもの……」
「食べ物以外でもオッケーよ」
「何故食べ物で答えること前提なんですか!」
私はクスクス笑いながら望さんを見ていた。
望さんはそれを見て「うぅ」と呻く。
「やっぱり覚えてない?」
「……少しだけ」
少しだけ?


「覚えています。好きなもの」

「なに? 教えて」
「教えませんよー」
望さんが笑う。
そして台所まで移動して「怜歌さんお腹空いたんじゃないんですか?」と言った。
話をそらしたつもりらしい。
「空いたけど。ねぇ何?」
「いつか教えますよ」
望さんの顔が見えない。
私は少しぞくっとした。
久しぶりに望さんは私と違うということをはっきり感じた。
「怜歌さん。昼ご飯食べて下さい」
「うん」
私は台所にゆっくり移動する。
望さんは持てやしないコップや、お皿を見て悲しそうな顔をしていた。
あぁ
「ごめんなさい」
私は聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。
「? 怜歌さん。ご飯なら昨日の夜の残りがあるはずですよ」
「うん。……あれ? よく覚えてたわね」
望さんはあまり記憶力がよくないはずなのに。
「どうでもいいことは覚えています。ね?」
楽しそうに望さんが言う。
本当だ。私はそう言おうとしてふと何か嫌な違和感を感じた。
「よし。用意手伝って」
「だから持てないですって!」
私はその違和感を無視した。
いいのだ。もう、なんでもいい。
冷蔵庫から昨日の残りのカレーを取り出して、レンジにいれる。あとはお茶と、ご飯も用意しなくては。
「怜歌さん。僕ちょっと寝たいんですが……」
「押し入れはやめてね」
またかび臭くなっちゃうから。
そう言うと望さんは苦笑した。今部屋に電気はついていないし、カーテンも締まったままだから望さんも大丈夫だろう。
「じゃあそのへんで寝てますね。あっ踏まないで下さいね! 通り抜けるのもダメですよ!」
「わかったわかった」
ちょうどその時レンジが鳴った。カレーのいい匂いが部屋に広がる。
私は一人で椅子に座ってカレーを食べた。
望さんは私に踏まれないように、隅っこで丸まって眠っていた。



見ず知らずの人間だった。
初対面は死体姿。
知り合ったのは死んでからだった。
私が殺してしまった。
だから、私が責任をとらなければならない。
例えそれが自殺であったとしても。
私は望さんを成仏させる責任がある。
私は望さんから離れてはならない。
私は望さんが知らない事をいつか伝えなくてはならない。

私は望さんに縛られている。
しかし何故だか私はそれが気持ちよかった。

「どうかしているのかもしれない」
私は呟いた。
そして
「望さん。好きよ」




「怜歌さんは知らなくていい」
いつの間にか望は一人だった。
怜歌は買い物に行ったらしい。メモがテーブルの上に置いてあった。
「僕が醜い人間だったことを」
望は尚も一人で呟く。

望は生前から怜歌を知っていた。
望は怜歌の乗っている車を知っていた。
望は怜歌の車だと承知でそこに○○○○○。


「怜歌さんったらやっぱりまだカレーが好きなんだね。全く辛いものは控えた方
がいいってお医者さんに言われていたのに」
望は困ったように笑った。
「おもいっきりスパイスをかけて食べるんだもの。そりゃあ体に悪いよね」

「それに、推理小説もホラー映画も本当に好きだよね。僕は苦手だけど。怜歌さ
んが好きなら好きになれるよ」


「怜歌さん大好き」
望は笑った。


ガチャリ
「あっ怜歌さんだ」
楽しそうに。


大丈夫。
僕離れないから。



ふりだしに戻る。


似た者同士

作品名:似たもの同士 作家名:佐伯けい