紳士は恋で作られる
なぜって、ほら、イーニアスの耳たぶが、だんだんと赤くなってきたもの。ここ十年くらい、ご無沙汰な現象よ。
「嘘をつくな」
「嘘だなどと、」
「おまえが無私無欲なことは知っている。心にもないことを言っていることもな」
「それはあなたの勝手な思い込みでしょう? 人の心中を読み取ることなど出来ません」
「でもわかるんだ。耳が真っ赤だぞ、イーニアス。おまえは嘘をついたり、誤魔化そうとしたりする時、顔には出なくとも、ここには出るんだよ」
そうよ、アンディは知っているのよ。今、彼が触れている耳たぶが、リンゴみたいに赤くなるってことをね。
「愛している、イーニアス。『うん』と言ってくれ。じゃないと嘘つきのおまえを簀巻きにして、このままニューヨークに連れてっちまうぞ。それこそ何もかも捨てて」
「旦那様」
「それは、俺の名前じゃねぇ」
「アンドリュー様、…あなたは、馬鹿です」
「さっきは馬鹿じゃないっつったくせに」
「撤回します」
『ガゼボの夜』の再現ね。アンディはイーニアスを引き寄せて、抱きしめて――でもあの時と違って、イーニアスの身体には最初から力が入っていないし、抵抗もしていない。
「でもその馬鹿のこと、好きだろ?」
アンディの言葉遣いも、あの夜に戻っている。
「ええ、悔しいですが」
私の知る限り、二人がキスをするのって二回目のはずよ。
木々の枝葉の間から六月のキラキラした陽の光が、細い筋となって差し込んでいるわ。無粋な音も、俗っぽい風も匂いもない。ああ、ロマンチックなキス・シーンがまた見られるのね、素敵。
「おっと、レディが人の濡れ場をかぶり付きで見るもんじゃねぇよ」
え、アンディ、何するのよ。ひどいわ!
私は二人の恋をずっと見守ってきたのよ。応援もしてきたのよ。そりゃ途中、諦めちゃったけど。でも見届ける権利はあるわよ。
なのにバスケットに閉じ込めるって、どう言うことよ、出しなさいよ、アンディったら!
「私が誰かを好きになるとは思わなかったのですか?」
「思わなかったって言ったら嘘になる。あのジャン・ポール・ディティエには焦ったかな。だから二ヶ月早く戻ってきたんだ」
アンディの笑い声が聞こえるわ。イーニアスも笑っているみたい。バスケットの目が細かすぎて見えないじゃないのよ。こんなに穏やかな二人を見るのって久しぶりなのに。
あら、静かになった…。
押して知るべしね、悔しいぃ。
こうして二人の長い恋は、サプライズなアンディの行動で成就したの。ニューヨークでの新生活が始まるのは、まだ先のことでしょうけどね。
出会ったばかりの頃のように、言いたいことを言い合って、あの頃にはなかったくらいラブラブで、幸せそうな姿を見ると私も幸せで、嬉しいわ。
私も今度は自分の恋を探さなきゃ。何たって女ざかりなのですもの。
でも、まずはめでたしめでたし。