海竜王 約束を
たくさんの花を届けてはくれなかったが、その龍は、『再び生きる』という約束を人間としてくれた。数年を、じっくりと観察して待ち、そして、少年を竜に生まれ変わらせてくれたのだ。
「お届けすればよかった。」
「花をかい?」
「ええ、そういうお見舞いをしませんでした。」
夫婦ふたりになってから、妻は、そう呟いた。何度か、深夜のデートなんてものはしたが、お互いに何も贈り物をしたことはない。ただ、時間が許す限り、一緒にいた。
「華梨の姿だけで、結構、いい贈り物だったけどな。・・・・きみが会いに来てくれる限り、俺は死なないんだと思えたからね。」
「私は、あなた様が私にだけ笑ってくださるのが、何よりの贈り物でした。」
子供を成人させて、すっかりと落ち着いた主人夫婦は、顔を見合わせて微笑んだ。ゆっくりと過去との決別を計った。それは、とても時間のかかる作業だった。時には恋しくて泣いたし、帰りたいと暴れもした。だが、今は懐かしく思い出すだけだ。
「ありがとう、あなたは、約束を守ってくれた。」
「とんでもない。約束を守ってくださったのは、あなた様です。私は、あなた様が欲しかった。願いを叶えてくださったのは、あなた様です。ありがとうございす。」
竜は、その少年を竜に変えて、いつまでもいつまでも仲睦まじく幸せに暮らしました。