居残り給食
「ねぇ、斉藤君はピーマン食べれる？」
智樹が眉間に皺を集め、冷たい牛乳瓶と睨めっこをしていると、隣の隣の席に座る女性から声をかけられた。
手のひらに広がるひんやりとした感触と白い液体から意識を逸らし、声の主の方に視線を向ける。
「食べれない……こともないような、食べれるような。難しいところ」
「そう……その気持ちわからなくもないわ」
しんと静まり返る教室に、智樹とピーマンを食べる事の出来ない前田真紀さんだけが残されている。
小学五年生にもなり、居残り給食は情けないけど、智樹は牛乳を飲むことが出来なかった。白いご飯と牛乳という組み合わせが胸を苦しめる。
なぜお茶ではないのか？ 永遠の疑問。きっと大人へと成長しても。
牛乳瓶を握り二十分が経過。智樹からすると、毎度お馴染みの光景。
いつもならば、お腹の中に牛乳を隠してトイレに駆け込み、全部流してしまう。けれど今日は前田さんの苦手なピーマンが出た日。
そうなると居残り給食は智樹一人だけではなく、前田さんと教室で二人残されることになる。だから今日は前田さんを置き去りに牛乳を捨てに行くことが出来ない。
裏切ったような罪悪感が残るし、なんだか気が引ける。
ああ……どうしよう。智樹は牛乳瓶から手を離し、顔を覆い込んだ。後二十分で外に遊びに行ったクラスメイト達が教室に戻って来る。
「うわーまだ食べてる。ばっかでぇい！」とまた言われるのが怖い。
苦悩する智樹は涙目になりながら、前田さんの進行状況を確認しようと、指の隙間からちらりと盗み見た。
クラス一の頭脳を持ち、男子達にその美貌とスタイルで人気者の前田さんが、難しい算数の問題を解くような表情でチンジャオロースの細切りにされたピーマンを箸で持ち上げて睨んでいる。
よく見れば箸がふるふると震えていた。前田さんの頭脳をもってしてもピーマンを食べるという問題は解けないみたい。
智樹が前田さんを固唾を呑んで見守っていると、次の瞬間、魚が餌に食いつくように前田さんは目を固く閉じ、ぱくりとピーマンを口に入れた。
智樹はその光景に思わず「あぁ！！」と声を上げた。
前田さんは智樹の素っ頓狂な声に驚き、ピーマンの原型を留めたまま皿の上に吐き出してしまった。
「うぅ……驚かさないでよ。せっかく食べれそうだったのに」
智樹が眉間に皺を集め、冷たい牛乳瓶と睨めっこをしていると、隣の隣の席に座る女性から声をかけられた。
手のひらに広がるひんやりとした感触と白い液体から意識を逸らし、声の主の方に視線を向ける。
「食べれない……こともないような、食べれるような。難しいところ」
「そう……その気持ちわからなくもないわ」
しんと静まり返る教室に、智樹とピーマンを食べる事の出来ない前田真紀さんだけが残されている。
小学五年生にもなり、居残り給食は情けないけど、智樹は牛乳を飲むことが出来なかった。白いご飯と牛乳という組み合わせが胸を苦しめる。
なぜお茶ではないのか？ 永遠の疑問。きっと大人へと成長しても。
牛乳瓶を握り二十分が経過。智樹からすると、毎度お馴染みの光景。
いつもならば、お腹の中に牛乳を隠してトイレに駆け込み、全部流してしまう。けれど今日は前田さんの苦手なピーマンが出た日。
そうなると居残り給食は智樹一人だけではなく、前田さんと教室で二人残されることになる。だから今日は前田さんを置き去りに牛乳を捨てに行くことが出来ない。
裏切ったような罪悪感が残るし、なんだか気が引ける。
ああ……どうしよう。智樹は牛乳瓶から手を離し、顔を覆い込んだ。後二十分で外に遊びに行ったクラスメイト達が教室に戻って来る。
「うわーまだ食べてる。ばっかでぇい！」とまた言われるのが怖い。
苦悩する智樹は涙目になりながら、前田さんの進行状況を確認しようと、指の隙間からちらりと盗み見た。
クラス一の頭脳を持ち、男子達にその美貌とスタイルで人気者の前田さんが、難しい算数の問題を解くような表情でチンジャオロースの細切りにされたピーマンを箸で持ち上げて睨んでいる。
よく見れば箸がふるふると震えていた。前田さんの頭脳をもってしてもピーマンを食べるという問題は解けないみたい。
智樹が前田さんを固唾を呑んで見守っていると、次の瞬間、魚が餌に食いつくように前田さんは目を固く閉じ、ぱくりとピーマンを口に入れた。
智樹はその光景に思わず「あぁ！！」と声を上げた。
前田さんは智樹の素っ頓狂な声に驚き、ピーマンの原型を留めたまま皿の上に吐き出してしまった。
「うぅ……驚かさないでよ。せっかく食べれそうだったのに」