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「人も玉ねぎもね、おんなじなのよ」

科学者を始め、いろんな分野の人間を敵に回しかねないこの言葉は、私のお母さんの言葉だ。
カレーだのシチューだの肉じゃがだのを作るとき、テスト前の勉強をしていようが、ハードな部活を終えて疲れていようが、お母さんはいつも私に玉ねぎを剥かせる。
めんどくさいからと言って嫌がっても、逆に料理上手に憧れて包丁を使った皮むきをやりたがっても、お母さんが私に剥かせるのは、決まって玉ねぎ。
「なんで、玉ねぎなのよ」横でニンジンの皮むきをやっているお母さんの横で私はぼやいたことがある。
「なんでって、それは千波に玉ねぎの神秘をわかってほしいっていう、健気な親心からよ」お母さんは、よくわからないことを平然と言いつつ、滑らかにニンジンに包丁の刃をすべらせていく。
私はお母さんからまともな理屈が出てくることを期待するのを諦め、早く終わらせたい一心で玉ねぎの皮と向き合う。
茶色の皮をはがすと、緑がかった皮が顔を出す。茶色と緑がきれいにわかれているとすぐ終わるけど、同じ層にこの2色が同席していると、余分にはがさなくちゃいけないぶん、手間がかかる。少しの差とはいえ、そのぶんの時間が惜しいほどには小学生というのは忙しいのだ。
私が玉ねぎの皮と黙々と向き合っていると、ニンジンを終わらせてジャガイモの皮むきに取り組んでいるお母さんから声がかかる。
「千波、玉ねぎってね、全部皮なんだそうよ」
「知ってるけど」
「びっくりしちゃうわよねぇ。剥いても剥いても、実なんか出てこないのよ。皮だけ。これって、すごくない？」
「すごいって、何が？」お母さんの感心ポイントは、１２年娘をやってきた私にもよくわからない。
「だってねぇ、皮だけよ、皮だけ。ニンジンやジャガイモならさ、剥いてればなんとなく、ああこれが実の部分なのねってわかるけど、玉ねぎは全部皮だから、剥けばちっぽけな芯しか残らないじゃない」
「そうだね」私は、結局何がすごいのかよくわからないまま頷く。
そうして、私がすべての玉ねぎの皮をむき終わると、お母さんがまた口を開いた。
「ね、それって、人生によく似てると思わない？」
「はぁ？」今、すごく変な顔してるだろうなって自分でもわかったけど、これですんなり頷けるほど、私の思考回路はぶっとんでいない。
「そして、ほら、玉ねぎの皮。これがあると、味に深みが出て、とってもおいしい」
お母さんは、結局自分の発言についてそれ以上解説を加えることなくカレー作りを進めていった。
小学生の日々は忙しいし、生まれてから今までのことをすべて覚えていられるほど私は頭がいいわけではないけど、そのときのお母さんの言葉と、その日のカレーがいつもどおりとてもおいしかったことは、不思議と記憶に残っている。