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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・ローズ

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 包帯で目隠しをした〈ミラーズ〉の顔が、鏡の欠片一つ一つに映っていた。
 呆然とする僕の腕を影山彪斗が引っ張って、エレベーターの外まで引きずられた。
 僕の背後でしまったエレベーター。
「ありがとう、助けてくれて」
「どういたしまして」
 影山彪斗はすごく落ち着いている。こうでなきゃ僕を助けられなかったかもしれない。
 廊下のフェンスから遠くの景色を眺めた。
 今回は僕のミスだ。町中には鏡のなるもので溢れているんだ。ここから見える家の窓だって、車の窓だって、もっと気を配るべきだった。わかっていたはずなのに、できないんだ。
「大丈夫かい?」
 横から影山彪斗が声をかけてきた。
 僕はうなずいて見せる。
「まあ……なんとか」
「僕のことは覚えてくれてかい?」
「影山彪斗だろ」
「そう、君が覚えていてくれたから、今度は前より楽に君の前に現れることができた。もう少し人が来なくて安全な場所に行こう」
 歩き出す影山彪斗に僕はついていった。
 階段を上る影山彪斗が向かったのは屋上だった。屋上の前には鍵の掛かった扉があったけど、よじ登れば簡単に越えられる物だった。
 まず影山彪斗が扉を越えた。
「登れるかい?」
 彼は手を貸そうしたけど、僕は遠慮して自力で扉を登った。
 屋上は広くてなにもなかった。もちろん鏡になりそうな物もない。ただ万が一〈ミラーズ〉たちが下の階から現れたら逃げ場はないけど。
 影山彪斗が立ち止まり、振り返って僕を見た。
「さて、まずは僕が何者であるかを話そう」
「なんで僕の前に現れたの?」
「僕らと同じ?弾かれたモノ?だからさ。とにかくまずは僕の話を聞いてくれよ。前回はどこまで話したかな?」
「まだ名前しか教えてもらってないよ」
「そうか、すまない。記憶障害がよく起こるせいで苦労する。なら初めから順を追って話そう」
 影山彪斗は少し間を置いてから、一気に話をはじめた。
「まずは君の置かれた状況からだ。世界分裂化現象と言って、世界は人の数だけあり、分裂を続けている。もしも3人の人間がいて、世界の数が2つしかなかった場合、君のような?弾かれたモノ?が余ってしまうことになる。たいていの場合は?弾かれたモノ?は自分自身の存在を保てなくなって消失してしまう。それは自分自身を映す世界という鏡がなくなってしまうからだ。ここまではわかるかい?」
 わかるようなわからないような感じだ。今いるこの世界が僕の世界じゃなくて渚の世界なんだってことは理解しようと思えばできる。それに当てはめてて考えれば影山彪斗の話も意味のわからないことではない。けど、言ってることが正しいかどうかはわからない。
「僕が?弾かれたモノ?とかいうのだとしたら、なんで僕は消失してないの? 普通はするんでしょ?」
「消失しない方法は自分を映すモノを見つけること。君の場合はこの他人の世界だ。この世界のホストは君のことを強く想っているんだろうね、それだけ強く映すことができる」
 今まで僕に起きていたことを考えればそれも理解できる。やはり僕は渚によって生かされてるってことなんだ。
 さらに影山彪斗は話を続ける。
「僕らの目的はまず、?弾かれたモノ?の保護と消失を食い止めること。それから〈ミラーズ〉との戦い。最終的な目標は自分の世界を新たに構築することになってる。大雑把にはこの3つかな」
「〈ミラーズ〉との戦いって、あいつらはいったい何なの?」
「プラスとマイナス、陰と陽、分裂しようとする力があるなら、それの逆の力もあるっていう当然の摂理さ。世界分裂化現象とさっき言ったけど、つまり世界は元々1つだったという仮説になっている。〈ミラーズ〉は大きな枠組みでいう世界の意思で、世界を1つに戻そうとしている……という仮説になってる」
「仮説ね……」
「ちっぽけな人間じゃそう簡単に世界の摂理をすべて解明することはできない。とにかく〈ミラーズ〉は僕らとは逆の意識を持って活動しているのだから、戦わなければいけないのは必定なのさ」
 すでにいろいろなことを体験しているせいで、だいたいの話は呑み込めた。
 影山彪斗の表情が真剣になった。
「そこで君に問う。僕らの仲間にならないかい?」
「仲間になったら僕はなにをすればいい?」
{さっき話した僕らの目的に付き合ってもらう}
 その中には〈ミラーズ〉との戦いも含まれていた。
 もう僕は〈ミラーズ〉に狙われている。さっきエレベーターで襲われたことを考えれば、僕自身が襲ってきたのは確実だ。なら逃げるか戦うかしかないじゃないか。
「仲間になるよ」
「本当にいいんだね?」
「すでに危険と隣り合わせなんだ。必要に迫られて僕はその選択肢かできないよ」
「ならこの世界を離れよう」
「えっ?」
 僕は渚のこの世界によって生かされてる。だとしたら――。
「ここを離れるなんて自殺行為じゃないか!」
 強くいう僕に影山は首を横に振って見せた。
「この世界以外でも君が存在できる術を僕らは持っている」
「どんな方法?」
「世界の分裂や?弾かれたモノ?の出現は今にはじまったことではない。ずっとそれを研究したり戦い続けている人たちがいるんだ。そして、ある偉大な魔導士が、ついに疑似世界を創り上げたんだ」
「世界を創るなんて……」
「そう、とてつもなく凄い偉業だよ。誰も真似できない、だから疑似世界はまだ1つしかない。そこの世界に僕ら?弾かれたモノ?は身を寄せ合って、互いを強くに認識しながら暮らしている。僕らが存在するためには、他人に意識してもらう要素も重要なんだ。だから君にも僕らと暮らし、深く付き合ってもらわなくてはいけない。君が仲間になるというのなら、この世界を捨てて僕らの世界に来てもらう」
 この世界を捨てる。
 もしかして渚にもう会えない?
 ほかの人たちにも会えないってこと?
「この世界の僕の知り合いにはもう会えないってこと?」
「僕らの世界にもいるにはいるが、みんなゴーストのようにぼやけた存在さ」
 渚が近くにいないときの風景。そういうことなのだろう。彼らの世界には渚もいないも同然ということなんだ。
「もうこの世界には戻って来れないの?」
 影山彪斗だって僕に会いに来たんだ。できないことはないと思う。
「しないほうがいい。今僕がこうして君に会いにこの世界にいること事態、とてもリスクのある行為なんだ。この世界やこの世界のホストに重大な危険を及ぼす可能性がある。だからなるべく僕らは他人の世界には干渉しない。?弾かれたモノ?を保護しに来て、新たな?弾かれたモノ?を生んでしまったら だ。そもそも?弾かれたモノ?の君がこの世界に居座っていることが悪影響を与える」
 僕が悪影響……。
 渚のことを考えるならさっさとこの世界から出て行ったほうがいいってことか。
「わかったよ。今すぐあなたたちの世界に行くよ」
 本当は最後に渚の顔を見たかった。でもそれもきっといけないんだ。干渉すればするほど悪影響を及ぼす。
 渚が〈ミラーズ〉に襲われたのも僕のせいなんだ。
 この世界から僕がいなくなったらどうなるんだろう。
 いなかったことにされて渚の記憶も改変されるんだろうか。
 もう決めたんだ。
 さよなら渚。
 ありがとう渚。
 影山彪斗が僕に手を差し伸べた。