明日に向かって撃て!(終)
朝の身づくろいを終えると鏡の前に立ち、渋面を作っていろいろな角度で顔を映す。
「ウン、まるでジェームスボンド、だ」と低音でひとりごちる。
事務所の棚の引出しからコルトガバメントM1911を模したスプリングエアBBガンを取り出し、人差し指でぐるぐると回し、引き金に指をかけて銃口をフッと吹くポーズ。
左腕を掲げて狙いを定めるポーズ。
両手でグリップを支えて膝を床に付き手を伸ばす。
バン! と声にする。
相変わらず、俺の一日はこうして始まる。
変わったのは早起きとなり、シャーロックの散歩がてら喫茶“憩い”で毎日朝食をとるようになったことだ。
早寝早起き朝御飯、は活力を引き出す秘訣である。何よりさわやかな空気と緑ちゃんの笑顔が気持ちいい。
え? あの晩のこと?
緑ちゃんに家まで送ってもらって、その夜はずっと付き添ってくれていた。それだけである。女と男が夜を共にしたからといって、変な勘繰りはしないでもらおう。
家に帰り着くと俺はベッドに横たわり、緑ちゃんがそばに椅子を寄せて坐っていたが、いつのまにかぐっすり寝込んでいたので俺のベッドに抱き上げて運び、俺は事務所のソファに横になって夜を過ごしたのである。
緑ちゃんはショッキングな出来事を経験して、帰り道ではずっと喋り続けていたのでアドレナリンが出尽くし、またかなりの気疲れも加わったのだろうと思う。
喫茶店の入口にポスターを張らせてもらっている。
便 利 屋 (元小南探偵事務所)
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仕事が軌道に乗りだしたら、たら、たら、だがその時こそ・・緑ちゃんにプロポーズするのだ。
「コナンさん、そんなにゆっくりしてて大丈夫なん? お客さん待たしたらアカンやろ」
雑誌に顔を向けて視線は緑ちゃんを追っている俺に、こうして尻を叩きつけてくる緑ちゃん。
俺の将来は・・・あアあぁぁ。
終わり
2011.3.5
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実