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明日に向かって撃て!(終)

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 最近は、便利屋のような仕事も引き受けている。
 年配者の独居家庭が増えており、力仕事を期待されていることが多いのだ。家具の移動や不用品のゴミ出しなどである。また、電灯のかさの掃除や換気扇の掃除など。ついでに話し相手ともなる。もしかしたら話し相手をすることが、最重要な仕事になっているのかもしれない。

 ご婦人は一度話し出すともう止まらない。お茶を入れ、お茶受けまで用意している。ま、いろんな情報が自然と入って来るので重宝することもあるのだが。近所の出来事、夫婦喧嘩の原因までよく知っていることに舌を巻くほどである。それを初対面の俺にまで喋るのだ。

 製紙会社の社長の道楽息子、井川元孝の話題が出た。喫茶店『茶論』で見た奴だ。
「あの子な、子供の頃からの悪でな。何やっても親がかばうさかいに世間をあもう見てるんや。最近は女の子をあさってるんやて」
と言って、他には誰もいない部屋であるにもかかわらず声を落として続ける。
「ここだけの話やけどな、誰にもゆうたらあかんで。若い子妊娠さして親がお金で片付けたって」
 そして地声に戻って同意を求めてきた。
「どうしようもないやっちゃな」


 仕事で遅くなり、暗くなってから散歩に出ることが多くなった。
 駅近くにある公園の近くまで来たところで、シャーロックが急に走りだそうとした。何かの臭いをかぎ取ったようである。空中に鼻をヒクつかせている。
 公園に入っていくと、裸の桜の木の下に人の影があるのを認めた。
 シャーロックはそちらへ向かおうとしている。
 もしかして、緑ちゃん?
 そしてもうひとつの影は男、であるらしい。