明日に向かって撃て!(終)
それ以降も[犬の美容室]と書かれた車は時々見かけるが、市内で営業している身元の確かな店ばかりだった。
ダルちゃんの捜索願いを受けてからもうひと月になろうとしている。今回ばかりは打つ手もなく、クライアントに推理だと断わって内容を報告した。
「繁殖犬にされたとしても、平穏に生きてくれてたらいいのですが」
寂しげな表情が忘れられない。
誘拐されて繁殖を目的に飼育されているのだとしたら、おそらく、おそらく狭いケージに入れられて運動もできず、狭いケージに入れられたまま車や飛行機で運ばれて交尾だけの目的を果たすと、また戻されて。 交尾能力が無くなったら・・・まだ若いうちであれば欲しがる人もいるであろうが。
欲しがる人がいるから無理な繁殖を強いる。
どうしようもない気分が続く。仕事がうまくいかなかったこともあるが、仕事自体の依頼件数がここんとこ少ないことも加わっている。
くさくさした気分の時は喫茶“憩い”に行きたいものだが、緑ちゃんに会うのがつらくなってきていることもある。
なぜかというと、こんな俺でも夢ばかりを追いかけているわけではない。現実に目を向けると、このように不安定な収入の探偵仕事を続けていていいのだろうか、と。このままでは、自信を持って緑ちゃんにプロポーズできっこない、と思うようになってきている。
2012.2.20
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実