明日に向かって撃て!(終)
腕が突然目の前に現れ、掌が・・・顔よりも大きな掌が俺の頭をつかもうと迫って来る。その向こうに見える顔は緑ちゃん。それは次第に阿修羅のごとく表情となり、掌がついに頭に触れると同時に俺は底なしの闇の中に落ちていった。
わあ―――
わっ。
上半身をのろのろと起こした。暑くもないのに汗をかいている。毎晩同じ夢を見る。あの日から一度も“憩い”へ行っていない。
きっと、きっと俺は完全に振られてしもたんや。
体が重い。食欲もわかない。仕事にも身が入らない。といってもここしばらくは暇なのではあるが。だから余計に同じ事ばかり考えている。
それでもシャーロックの欲求だけはかなえてやらねばならない。
シャワーで汗を流してから、しぶしぶ朝の排便の為の散歩に出た。
うつろな気分で歩いていると、シャーロックは何やらを口に入れもしゃもしゃと動かしている。あわてて口をこじ開けて取り出すと、ティッシュである。道端によく捨てられているのだ。
犬にとってティッシュは何らかのにおいが付いた、柔らかく魅力的な食べ物であるらしい。拾い食いは戒めていても、気付かずにいると口に入れている。
散歩から帰ると俺の朝食。
くっそ〜。インスタントラーメン2個を鉢に入れ、湯をかけて少し待つ。このままだと栄養失調だァ〜。
口いっぱいにほおばり、滝のようにぶら下がっている麺。鼻水がレールを走って出て来る。鼻水を啜り上げようものなら麺が鼻に入ってきそうだ。ついでに目頭にも水がたまってきた。
ああ、緑ちゃんに会いたい。いいや、意地でも行くもんか!
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実