明日に向かって撃て!(終)
というわけで、出直し1日目。マンションの陰から集合ポストを見張っていると・・・
公園の方角からやってきた女性が、あたりに目を配ってポストの方へ近づき、バッグから何かを取り出した。
姿勢を低くしてのぞき見をしながらカメラを構え、シャッターを数回押した。バッグから取り出したのは鍵ではなさそうだ。長い物を隙間に突っ込んでいる。
俺は興奮してきた。これは犯罪だよ、と思う。犯人を捕まえるのは初めてなのだ。
さらにシャッターを押した。
女性はまもなくポストから何かを取り出して、それらをバッグにしまい、もと来た方向へ歩きだした。
俺ひとりだと、相手が女性の場合厄介なことになるかもしれないからという小沢さんの意見を取り入れて、公園に入った所で声をかけた。男だとしても、ひとりだと手に余ることは考えられるのだが。
「なんですか?」
と女は振り返った。
俺は次に言う言葉を失った。
美人なのだ。柴先コウ並みに!
「あわわわわ、そのう」
小沢さんはシャーロックを連れてそばにやって来ると、代わって言った。
「おねえさん、山口さんちのポストから手紙を取り出したん違うの?」
「なんであたしがそんなことするんや、このアホ。証拠でもあるちゅうんか」
見かけからは想像もつかない蓮っ葉なもの言い。すぐに気持ちを切り替えて言った。
「あるんです。このデジカメに現場写真を収めています。ほら」
ポストから郵便物を取り出している場面を見せた。
こんなもん、と言いながら持っているバッグでカメラを払ってくるところ、手首をつかみバッグを取り上げた。これで逃げたりはしないだろう。
「僕の事務所がこの近くにありますから一緒に来てください。小沢さんもご一緒していただけると嬉しいんですが」
歩きながら山口さんの奥さんに電話を入れた。
「クソッ垂れ、安美なんかに会いとうないんじゃ」などと喚いている。
美人なのに・・・
立ち止まっては喚き散らす女をなんとか事務所まで連れてきたときには、山口安美さんはすでに到着して待っていた。バイクではさほど時間がかからない距離だ。
「堂本さん! あんたやったん?」
「フンッ」と言って顔をあさっての方向に向ける女と山口さんを中に招じ入れた。
「小沢さんもせっかくですからどうぞ」
と声をかけたのだが、今から始まるであろう修羅場を避けたい、という気持ちが見え見えにそそくさと帰って行った。
作品名:明日に向かって撃て!(終) 作家名:健忘真実