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過去を贈る、今を贈る

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空気を含んだ地面は、霜柱が出来上がりすっかり盛り上がっている。
花壇を囲む煉瓦も、霜で白い。
私はブーツの紐をしっかり締め、箒を片手に外に出た。
ザクザクと、小気味良い音が歩くたびに身体に響く。

もう午後だというのにも関わらず、曇り空のせいで気温は上がらなかった。
薄いグレーの雲が風に乗って流れていく。
冷え込んだ空気のせいで頬が痛んだ。
しかし、心地よい痛みだ。

私は息を吐き出す。
箒を握り直し、家の前にある木へ向かった。
私より少し年上の針葉樹。
「もうすぐ出番だよ」
答えてくれるわけがないと思いながらも、呼びかけずにはいられない。
枝には無数のオーナメント。
そして、頂を見上げれば鈍い金色の、大きな星。
もうすぐ。もうすぐだ。

思わず口元が緩んでしまう。
毎年毎年同じように繰り返したことなのに、この気持ちはまったく風化しない。
むしろ、同じようにこの時を今年も迎えられたことに感謝するべきなのだろう。
「主に感謝します、か」

視線を地面に戻し、木の下を掃き始める。
細かい葉が落ちるのは仕方がない。
どんな植物でも育てるのは手間がかかる。
最近の観賞用はほとんど手入れが要らないらしいが、
それでは生き物を育てる醍醐味が薄れてしまうというものだ。

急ぐ必要もない。ゆっくりと根元の端まで埃を払う。
この木も、本当に大きくなった。
私では、もう手を回しきれないほどだ。
幹のすぐ側でもう一度見上げてみれば、フラクタルを描く枝葉に覆われ星はすっかり隠れてしまっている。

シュウン。

車の音が響いた。
私は敷地の外に目を向ける。
大分離れた場所にある舗装道路に、路線バスが停まったのが見えた。
珍しい。まだ時間は早いというのに。
降りてきたのは……一人だけだ。

木を目印にでもしたのか、こちらへと真っ直ぐに向かってきた。

***

『ご搭乗ありがとうございました。
 惑星ノエル、五番ステーションです。
 各都市へお向かいの方へ、乗り換えのご案内を致します……』
窓の防護シャッターが一斉に上がった。
オレはシートベルトを外して、思いっきり背中を伸ばす。
跳躍航法でも丸一週間。とんでもない田舎。

荷物を背負って、ガラガラだったシャトルの外に出る。
ここからはバスだ。
端末にメモしておいた時刻表を確認。時計と見比べる。
「……やべ」
あと十分しかない。
このバスを逃すと、次は三時間後。

オレはパスポートを広げながらホームを走った。
人もほとんどいないから全力疾走する。
受付を急かして入国手続き完了。
エレベーターで一階まで降りると、そのままステーションの外に飛び出した。

「寒っ……!」
何だこの気温。すげぇ寒い。しかも曇ってるし。
思わず首をすぼめる。

けれども立ち止まらずにターミナルを走る。
二番、二番。
「2」とでかく描かれたポールを見つける。
バスは扉を開いたままで停まっていた。
オレはスピードを落とさず、車内に乗り込んだ。

「セ、セーフ」
と言ってしまってから、他の客に聞かれてないかと顔を上げる。
……無人。運転手しかいない。
「お客さん、どこまで行くんだい?」
運転手のおっさんがオレに聞いてきた。
「え、えっと、テラフォーミング研究所前ってとこ」
これじゃタクシーだろ、と心の中で突っ込む。

マジで田舎だな。全然人いないし。
『出発します』
アナウンスが流れると、バスのエンジンがかかった。
オレはどうせだからと一番後ろの長い席に座る。

バスの中には紙のポスターがベタベタ貼られている。
今時こんなもんが運行してるってことが奇跡だ。

何もない道路を、バスは快適に進んでいく。
時々信号で停車するけど、前にも後ろにも、右にも左にも車はゼロ。
真っ昼間からこれかよ……。
オレはだんだん、柄にもなく不安になってきた。