茅山道士 人間の皮事件2
と、言いながら、自分はあの人について学ぶことにしたことを伝えた。それで後を追い駆けるので、ここで失礼すると頭を下げた。
「緑青師匠。麟さんはまだまだこれからですわ。あなたが教えることは山のようにあります。どうかお元気でやってください。」
津氏はふたりに挨拶して廟の奥に消えていった。
「麟。」
緑青は呆れたように若い道士をみた。自分の生命を代償としていたことを聞かされたからである。麟は高尚な術を自分のものとする為の修行をしているのに、それを途中で打ち捨ててしまうことになるからである。
「心配をおかけしてすいません。でも、あの仙人様はけっして私の生命を取らなかったでしょう。」
「おまえは、そんな打算的なことを考えていたのか。」
「いいえ、そうじゃありません。ただ、お顔を拝謁した時にそう思ったのです。」
にこにこと笑いながら麟は歩き出した。
「まあ、いい経験にはなっただろう。」
そう言いながら、麟の後をゆっくりと追いかけた。麟にとって、自分の生命なんてものは、それほど重要ではない。この身に潜ませている術を緑青に渡せば、それで終るものだからだ。ただ、それで終らないことも理解はしている。自分が感じている緑青の資質では、この術は譲ったところで身に着かないのも解っているからだ。この修行の旅の途中で、緑青以外の才のあるものを見つけ出せたら、そちらに譲るほうがいいのかもしれない。
作品名:茅山道士 人間の皮事件2 作家名:篠義