カゴの守人
「多分、でもどんな言葉を答えればよかったんだ?」
「心当たりねーな」
カミヤとチャックは顔を付き合わせる。
「疑問はそれだけじゃない。あのカクカクとした声はどこから聞こえたのか、とか
あと、塔の材質はなんなんだ、とか。わかんない事だらけじゃないか」
皆口々にあーでもないこーでもないと言い合った。
でも、結局結論は出なかった。
*
家に帰り、クラインは親になにげなく聞いてみた。
夕食時の事だ。
「ねえ、カゴの中心にあるあの塔ってなんなの?」
父親は顔をあげ訝しむ様な顔をする。
「なんだ、不躾に」
「いいから、教えてくれよ」
「ふむ………」
父親は顎に手を当て考える風に目を逸らす。
「私にも詳しい事は分からん。あれは、確か過去の先人達の遺物との認識しかないな………。
一種のオブジェの様なものなのか、はたまた、実用的な使用法があるものなのか………。今となっては誰も知らん」
「ふーん………」
クラインは少しがっかりときていた。少しは手掛かりになる事が聞けるかもしれないと思ったが、自分も知っている事ばかりだったからだ
「………ああ、そういえば。確か、塔について詳しいじい様がどこかにいたような………」
クラインは目を見開く
「どこにいるんだ?」
興奮のあまり机が割れる程の強い力で叩いてしまった。
「おいおい、そんなに慌てるな。今思いだす」
父親はうんうんと唸りだす。クラインは興奮していた。やっとあの塔の事について手掛かりが見つかったのだ。
「ああ、町の北部に住宅街があるじゃないか、その中に異様に古い屋敷があるんだ。古い家の家主さんが確か、塔についての記録をもっていたはずだよ」
父親はただ、と付け加える
「あそこの親父さんは頑固もので有名でね。気に入らないと人手酷く追い返されるらしい」
クラインはコクりと頷く。
「ありがとう、わかった」
それを聞いても直、クラインはめんどくさがらなかった。
クラインは思ったのだ
そういうじい様がいた方がそれっぽい、と。
*
自室に戻りクラインは次の日の計画を立てる。
幸い次の日は休みだったので余裕をもってじい様の家に行ける。
「さてと、何をもっていこうか」
もちろん手土産をである。そういう風に少しでも気に入られようとする魂胆だ。
「うーん、何がいいのか………」
クラインは普通の子達と同じ様に偏屈なじい様の好みなんか知らない
一応は部屋の中を探してみる。しかし、出てくるのはガラクタ程度。人様に出せるようなものは何一つないという状況だった。
クラインは気を取り直してキッチンをあさってみる。最初に見つかったのは新品のたわしだった。
「………流石にこれはないな」
もちろん却下した。
他にも梅干し、酵素洗剤などが出て来た。もちろんそれらも却下。
最後に納戸の下にある床下を探してみる。出て来たものはなんの変哲のないものばかりだった。
ただ一つを除いて。
それは黒くて小型の箱だった。
クラインはそれを上下にふってみる。少しだけかちゃかちゃという音がした。箱の側面には突起もなにもないただ、白くて丸い模様があるだけだった。
もしかした何か反応があるかもしれない。そう思った。クラインはそっと指を近づける。
スッと一瞬緊張が体に走った。
しかし、それも本当に一瞬の事だった。何も起こらない。
まあ、普通に考えればそれはそうだ。前回の塔の件で少々そういったものに過敏になっているのかもしれない。
クラインは頭を振った。
まあ、これでも土産の足しになるだろうとクラインは思った。なんでもそれをもって行く相手のじい様というのは頑固で変人らしい。変人が好きなものというのは変なものというのが相場というものだ。ならばこれをもって行けばきっとじい様のお目がねに適うはずだ。
クラインは黒い箱を持ちだして家を出た。
*
家を出て1時以上歩いただろうか?
じい様の家はクラインの家と反対側にあるために着くのにはかなりの時間を要してしまった
だが、着くにはついた。
クラインはじい様の家であろう建物を見上げる。
外観は回りにある家とさして差はない。異様な雰囲気もなく、クラインは少しだけがっかりした。
実際にはこんなものか、とクラインは自分を納得させる。
なにはともあれ中に入らなければ話は始まらない。
ドンドン
ドアを2階ノックする。反応がない。
ドンドン
今度はさっきより強くノックする。
が、反応はない。
「………いないのか?」
クラインは首を傾げる。最後にもう一回、と再びドアを叩こうとする。
その時ノブが擦れる音を立て、ドアを軋ませながらゆっくりと開いた。
*
「どなたかの?」
現れた人物はヒゲがとても素敵な老人だった。確かに頑固そうではあるがそんなに変人には見えなかった。
ただ、一つだけ気になることと言えば目の下にくまが色濃出ていることだった。
「いえ、あの、その………」
あまりの拍子抜けさにクラインは逆に慌ててしまう。
「なんだね………」
一瞬にして老人の顔が渋いものとなる。
早く何か言わなければ………。そう思い早口であの話を聞く。
「カゴの塔のことをお伺いしにきたんですが………」
老人はあごひげに手をやり訝しげな顔をする。
「ふむ………、あの塔のことか。まあ、話してやってもいいが、君は何故そのことを知りたいのかね?」
クラインは少し戸惑う。何故あの塔について知りたいのか?実の所クライン自身はっきりとした答えをもっていなかったからだ。
「どうしたのかの?」
老人は問う。
「あの塔はこの町に置いて異質だから」
とっさに答えた。
「あの塔は異常だ。過去の遺産というが、明らかに今の僕らの生活とは掛け離れている。だから………」
クラインは言葉をつづけようとする。
しかし、老人はそれを止めた。
「わかった、もういい………。君の言いたいことは把握した」
「私の名はブリュースター・シップ。呼ぶときはブリューでいい。中に入りなさい。話をしてあげよう」