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カゴの守人

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半径3キロ、周りには高い高い塀がそびえ立ち、その中心にはその塀すら超える高さの古代の遺跡である<鉄の塔>がそびえ立つ。
 塀の内側には鬱蒼と繁る木々が生い茂り、川が流れ、田畑があり、街があった。
僕ら人類の生活スペースはただそれだけであった・
 ただただ、人々は日々を生きる為に田畑を耕し、川に出かけ、森で狩りをした。
その小さな箱庭の中で人々は生き、死んでいった。
 が、それでも人々は幸せだった。
 そんな世界を人々はカゴと呼んでいた。

「なあ、知ってるか?カゴの中心にある塔に纏わる話を」
最初に言いだしたのはクラインだった。
「何、どんなの?」
と、幼なじみのユリカが話しに乗る。
ここ、たまり場にいたメンバーの面々も興味深そうにクラインの顔を見る。
「あの塔にはなんだか凄い宝が眠ってるんだとよ」
クラインはそのまだあどけなさの残った顔を綻ばせ得意そうに皆の顔を見渡す。
が、皆の顔は彼の望んでいるような一色単ではなく、様々な反応だった。
「なんだよ、期待させやがって」
先に声を上げたのはカミヤだった。
眼鏡をかけていて、神経質そうな細い身体つきの男の子である。
「なんだとはなんだ?せっかくの面白そうな話しだろう?」
思いがけない反応にクラインはぶすりと顔を膨らます。
「別に………」
ボソリと呟いたのはチャックというフードを深く被った小柄な男の子だ。
「またホラ話か?クライン?」
そう言ったのはノアだ。
クラインや、ユリカより一つか二つ年上のお兄ちゃんの少年である。
「なんだよ、みんなして!こんな冒険心くすぐられること他にあるのかよ?」
クラインは膨れっ面で乗り気じゃないメンバー達に喚き散らす。
「何いってんだよ、クライン。別に僕らは冒険心を満たす為にここにたまってるわけじゃないんだよ。………ようは暇つぶしさ」
ノアはやれやれといった風に手を持ち上げる
カミヤが黙り、チャックがコクリと頷く。
しかし、そこにユリカが口を挟んだ。
「あら、暇つぶしっていってもここにいるだけで、他に何もすることないじゃない」
不満を漏らすようにしてユリカは頬を膨らませる。
どうやらこのネタは彼女のお目がねには適ったらしい。
「だよな~」
と、ここぞクラインも同調する。

 いつもどうり、少年達は仕事をサボりそんなたわいのない、よた話をしていた。
現状に不満があるわけではない。
 ただ、満足もしていない。
 そんな宙吊り状態の中に少年達はいたのだ。
 いつから、というわけではない。
 生れつきそうなのだ。
 その状態が特殊という訳でもない。
 彼らの親もそのまた親もそうやって生きてきた。
 彼らほど顕著に表さなかっただけで皆が皆、少なからずそういった思いはあったのだ。
この閉ざされた世界ではそれも致し方ない。
 だから、大人達も彼らの行動を咎めたりはしない。
 彼らはサボる事はあっても自分達に振り分けられた仕事を投げ出す事はない。この世界での「ルール」を破る事もない。いわゆる、ただの息抜きをしているだけなのだ。
 別に不良というわけではないが、それが彼らにとって思春期っぽいというだけの事だったのだ。
 切羽詰まってる訳ではないから、そういう部分にも皆おおらかだった。

 クラインがホラ話を言い出すのはいつもの事だった。
 いや、ホラ話というには少々出来過ぎている部分もある。
 が、大半が彼の想像で創られた話なのだ。
 時に、地下に眠る太古の遺跡だったり。
 時に、〈外の世界〉を駆け、岩の蟲や鉄の竜を狩る旅人の話だったり。

 時に、町の中心にある塔に纏わる伝説だったり。

 彼のホラ話はとにかくバリエーションが豊富なのだ。
 そのホラ話はどこから来ているのか、と言われれば答えは至極単純な話だ。ようは街の至る所ににある昔の記録や伝記などから来ているのが大半だ。
 それでも、ホラ話になってしまうというのは、過去の記録が紙媒体に記録されているからなのだ。
 所々虫食いになっていたり、シミや汚れがついていたりして読めない部分があったりする。そういう所を補うのが彼の趣味であり、ホラ話の大元だったりする。
 が、それに加えて彼は本で得た知識を悪用するのだ。
 まあ、悪用といっても悪戯に使う程度。町の利益に関わるような大それた事はしない。だからこそ彼が〈ホラ吹き〉と呼ばれ、それだけで済んでいる由縁なのだ。

 ユリカの賛成により、形勢は逆転し男連中は渋々と賛成せざるおえない状況になっていった。曰く、ユリカは女の癖にとても押しが強く、中には女の皮を被った男だ、と言い放つ奴もいた。
 が、それを本人の目の前で言うと十中八九ボコられるので、もはや口には出さないのが町の男連中の暗黙の掟となっていた。
 結局の所、影でこのチームを操っているのは彼女なのだ。
ただ、本人には自覚がないのが難点なのだが。
最後には自分の思惑通りに事が運びにやにやしている彼女の顔には腹に一物抱えた様子がなく、天真爛漫な笑顔を見た男連中は成す術がなくなってしまうのだ。

 クラインが言った。
「ほらー、なんだかんだ言ってもお前ら行きたかったんじゃーん?」
得意げな顔でそんなことを言うクラインに男三人は揃ってケッ、と舌打ちをした。
「調子乗ってんじゃねーぞ、クライン。
別に、てめぇの案に賛同したわけじゃねー」
いの一番に食ってかかったのはカミヤだった。
「おいおい、言ってる事とやってる事が違うぜ?カミヤ?」
「いいや、違ってないね」
カミヤは断言する。
「?」
クラインは首を傾げ、手を顎にやる。
「いや、だからな………!」
意図が伝わらずいらついたカミヤが声を荒げる。
クラインはなかなかどうして天然気味なのだ。
そこがカミヤとなかなかの水と油ぶりに拍車を駆けている所なのだ。
「つまりだな………」
見兼ねたノアがクラインの首に手を回し、ゴニョゴニョと耳打ちをする。
「ああ、そういわれてみれば!」
ユリカ以外の男子三人がコクリ、と頷く。
事情を分かっていないユリカは少し不機嫌そうな顔をして「なによ」と小石を蹴飛ばすしぐさをした。
「なに、ユリカはいつも可愛いね~って話さ」
ノアはキザ男よろしくユリカに取り繕う。
「あからさまに怪しいんですけど………」
しかし、そんな事でユリカの機嫌を取る事が出来るはずもなく、結局彼女は拗ねたままだった。

 その日はユリカの機嫌が直らず、結果的には反対派三人の意見が通る形になってしまった。
「はぁ~、なんだかな………」
クラインは自宅にある書庫に篭り、窓の外に浮かぶ星空を見上げながら呟いた。
ランプの温もりで顔を照らされ、本を読む手がいくばくの時か止まる。
「ふぅ………」
 彼が思うのは最近の集まりの活動内容だった。
彼らが集まるのははっきり言ってしまえば、暇を潰す為だ。
ようは暇さえ潰れればなんでもいいわけだ、が………。
 クラインがチームに求めるものというのは正直に言うと違った。彼が求めているのは誰もかれも見た事のない場所で冒険をすること。ワクワクと心が躍るような、鎖で縛られたような現状から解放されるようなそんな冒険なのだ。
 そんな彼が今の現状に満足するはずもない。
 クラインは悩んだ。
作品名:カゴの守人 作家名:neriko