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circulation【2話】橙色の夕日

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 いつもと変わらない、自信満々で、大胆不敵と言う言葉をそのまま表したような、そんな顔。
 先に行った二人に追いついたデュナは、やおら腕を組み、ちんまりとしゃがみこんで置物を見つめるフォルテを見下ろした。
「それ、買ってあげましょうか?」
 背後から降ってきたデュナの声に、フォルテが弾かれるように振り返る。
「えっ、いいの!?」
「ファルーギアさんには、たんまりいただいたからね……」
 こみ上げる笑いが、デュナの口端に滲む。

 うわぁ……。
 どう見ても悪い人の顔だ。
 視界の隅では、スカイも引きつった顔でデュナの横顔を見ていた。
「うーん……」
 一瞬あんなに嬉しそうにしたフォルテが、急に思案顔になる。
「……いいや、やっぱり。いらない」
 店のおじさんの視線が突き刺さる。
 どうやら、今の会話で相当に期待させてしまったらしい。
 そんな視線を物ともせず、デュナがフォルテに尋ねる。
「どうして?」
「ええと……」
 口ごもりながら、ひとつずつ言葉を拾い集めるようにしてフォルテが話す。
「この、置物見てるの……好きだけど。その、なんだか、懐かしくて、優しい気持ちになるの……けど」
 俯いて話していたフォルテが、息を吸って、デュナを見上げる。
 腕を組んだまま、それを見下ろしているデュナだが、その視線はとても柔らかくフォルテを捉えている。
「あんまり、こればっかり、見てちゃダメ……なんだと、思う……。
 私、皆と一緒に、もっと色んな物を見る方がいい……」
「そう、よく分かったわ」
 一生懸命に、その大きな瞳を潤ませて話したフォルテの髪を、デュナがふわふわと撫で回す。
 フォルテの表情が、ふにゃっと崩れて笑顔になる。
 デュナも、あまり外で見る事のない、優しいお姉さんの顔をしていた。

 スカイも嬉しそうな顔でそれを見つめているが……。
 皆はおじさんの視線が気にならないんだろうか。
 私は、既に居た堪れない感じになっているのだけれど……。

 チラ、と刺さる視線の元を窺うと「買う気が無いならもう帰れ」と言わんばかりに睨まれてしまった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
 スカイが皆に声をかける。
 よく見ればその額にうっすらと冷や汗が浮かんでいる。
 どうやら、態度に出さないようにはしているが、スカイも私と同じくおじさんの視線をひしひしと感じていたようだ。
「そうね、一旦家に戻ったら、次は花探しよ」
 デュナがくるりと踵を返す。
 真っ白な白衣の裾が翻る。
 それを合図にするようにして、私とスカイも店に背を向けた。
 後ろを振り返らないように気を付けつつ、慎重に背後のフォルテに手を差し出す。
 きゅっと私の手より一回り小さな手が、濃紫のグローブを握ってくる。
 それを大切に握り返して、私達はザラッカの街を後にした。