後ろの女
え? 気味悪くないかって?
まあ、普通に考えれば そうだろうなあ。
ん? 引っ越し?
確かに他の場所に移れば、この怪奇現象からは逃れられるかも知れないけど。
それは ちょっと事情があって出来ないんだ。
なぜかって?
実はね、君と付き合う前は真紀子が僕の恋人だったんだよ。
驚いたかい? 全然気付かなかったろ?
僕にとって恋愛とは二人の中で完結するものなんだ。
他人に認められることも祝福されることも必要ない。そんなことは何の意味も無い。
僕と真紀子は二人だけの世界で本当の愛を育んでいたんだ。
でも、些細なことから その想いにズレが生じてしまった。
別れようって言われたんだ。
そう、ちょうど今日の君みたいに。
そんな怖い顔して逃げようとしないでよ。どうせ、もう身体の自由はきかない筈だよ。
君が飲んだブランディーには、ちょっとした薬が入っていたんだ。
あの時と同じさ。
そんなに もがいても無駄だよ。せっかくの美人が台無しになるじゃないか。
あそこの白壁を見てごらん。あの中に真紀子がいるんだよ。
そんな声出すなよ。まあ、どんな大声でも隣の部屋には聞こえないけどね。
これで 僕がこの部屋から離れられない理由が分かったろ?
ああ、なぜ こんなに僕が愛しているのに君達は裏切るんだろう。
僕は君に本当の愛を見失ってほしくないんだよ。
いつまでも僕達は一緒にいるべきなんだ。
さあ、明日からは君も真紀子と共に僕を見つめてくれよ。