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ラベンダー
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔Ⅱ

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「やめろ…苦しい…!…離してくれ…!」

宙に浮いた男は、自分の首を両手で掴んだまま、足をばたつかせている。
ザリアベルはそのまま、正樹に顔だけを向けて言った。

「探したんだぞ、正樹。どうして意識を塞いだりしたんだ。」
「ごめんなさい…。自分でなんとかしようって思って…」

正樹がうつむきながら言った。死ぬつもりだったことは言えなかった。ザリアベルがため息をついて言った。

「こういう時に頼りにしてくれなきゃ、友達になった意味がないじゃないか。」
「…うん…。」

正樹は、はにかむように微笑んでから「ごめんなさい」と言った。
その時、撃たれた男が呻いた。

「!!おじさんっ!!しっかりして!」

正樹がそう言って男にかがみ込んだ時、ザリアベルが前に向いて言った。

「アルシェを呼べ。ひがむから。」
「!…わかった。」

正樹は笑いながら「アルシェ!」と叫んだ。
光の塊がザリアベルの背中に現れた。そしてその光の塊は、白い羽根を背に広げた銀髪の男に変わった。

「呼ばれて、飛び出てじゃじゃじゃ…」
「なんとか大魔王、その怪我人をなんとかしろ。」

ザリアベルが、アルシェに最後まで言わせないように言った。

「任せるある!」

アルシェはそう言いながら敬礼すると、呻いている男の体を起こして言った。

「正樹君、羽根につかまって!」

正樹は笑いながらうなずいて、アルシェの背中に回り羽根にしがみついた。
アルシェがザリアベルの背に言った。

「後はよろしく、アクビ姫!」
「誰が姫だ。」
「えっそこ!?」

そのアルシェの声を残して、3人は消えた。
ザリアベルは苦笑しながら、更に自分の手に力を込めた。

「うああああぁ…」

足をばたつかせていた男の力が無くなっていく。そのうちに、だらりと体中の力が抜けたように動かなくなった。

「だらしのない奴だ。」

ザリアベルはそう呟くと、ぱっと手を開いた。
男の体が、地面に音を立てて落ちた。
ザリアベルは地面に落ちた男にゆっくりと歩み寄り、傍に落ちている携帯電話を拾い上げた。
そしてある番号をプッシュすると、電話を耳に当てた。

「もしもし。ここに銃を持った男が倒れているから、捕まえに来い。…え?ここはどこだって?…そんなこと知るか。携帯切らないでおくから、そっちで調べろ。」

ザリアベルはそう言うと、そのまま倒れた男の傍に携帯電話を置いた。

『もしもしっ!もしもしっ!!』

警察官の慌てた声を背に、ザリアベルは姿を消した。

……

「臓器売買会社…摘発か…。」

ハクション大魔王…ではなく、銀髪の天使「アルシェ」の人間形「浅野俊介」は、自宅のソファーで新聞を広げてそう呟いた。

「正樹君、間に合って良かったですね…。もし摘発がもう少し遅れてたら、危なかったんじゃないですか?」

天使「アルシェ」の主人(マスター)「北条(きたじょう)圭一」が、浅野の前にコーヒーの入ったカップを置きながら言った。浅野は新聞を畳みながら言った。

「ああ。正樹君自身も、逃げる気なかったみたいだからな。」
「正樹君って…気丈な子ですね。自分が誘拐されたことを気付かれないように、意識を塞いだなんて…」
「ん。しかし、ザリアベルが正樹君に怒ってたよ。…親を悲しませるつもりかってさ。」
「…そうですよね。確かに。」

圭一がそう微笑みながら言って、浅野の隣に座った。

「今日はザリアベルさん、来ないんですか?」
「ああ。今、海斗君が赤ちゃん連れて、正樹君の家に来てるんだそうだよ。ザリアベルも赤ちゃん見に行くってさ。」
「そうですか。ザリアベルさんって、本当に子どもが好きなんですね。」
「ん。顔に似合わずな。」

『やかましい。』

突然、向かいのソファーにザリアベルが現れて、浅野は飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「ザリアベルさん!」

圭一が嬉しそうに声を上げた。浅野はむせるのに精いっぱいだ。圭一が笑って、浅野の背を撫でながらザリアベルに言った。

「紅茶飲みます?」
「ん。」
「今日は「レディグレイ」があるんですけど、いかがですか?」
「それはいい。「レディグレイ」ならストレートのままで頼む。濃いめにな。」
「わかりました!」

圭一はそう言うと、立ち上がってキッチンに向かった。

「ザ、ザリアベル…ごきげんよう…」

浅野がまだむせながら言った。

「ごきげんよう。」

ザリアベルが無表情のまま言った。

「海斗君とたっちゃんは元気でしたか?」
「ああ…途中でこっちが疲れて逃げてきた。」
「そんなに元気だったんだ…」

浅野はそう言うと、コーヒーを口に含んだ。

「あー…びっくりした。」
「ショーの構成は決まったのか?」
「ええ!ほとんど決まりました。台本も明日にはできあがりますよ。」
「…台本読まなきゃいけない程、セリフがあるのか?」

ザリアベルが不安そうに言った。浅野は自分の顔の前で手を振りながら言った。

「ああいえ。ザリアベルは二言三言くらいです。後は、逃げ回ってもらえれば。」
「そうか…」

ザリアベルがほっとしたように言った。すると浅野が突然思い出したように言った。

「あ、それから、今週中に副社長に挨拶に行っていただきたいんですよ。ザリアベルは、悪魔役のフリー役者ということになっているので…」
「わかった。」

ザリアベルがそう答えると、フルーティーな香りが漂ってきた。
圭一が「レディグレイ」の入ったカップを盆に乗せて、ザリアベルの横に座った。

「はい、どうぞ。ザリアベルさん。」
「ありがとう。…さすが、いい香りだな。」
「スコーンも今温めているんです。もうちょっと待って下さいね。」
「そうか。」

ザリアベルが嬉しそうにした。浅野が圭一に慌てて言った。

「えー!?圭一君、僕のはー?」
「ちゃんとありますよ。」
「やった!」

浅野が両手を上げて喜んだ。圭一が笑った。ザリアベルも苦笑している。
…だが、この穏やかな時間は、さほど長くは続かなかった…。

(終)