魔本物語
「ボクも一緒にね!」
「そう、ファティマと一緒にね」
街道を進み、セイはあることに気づいて足を止めた。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「どうやってここから出るか聞いてなかった。地上にどうやって出たらいんだろ?」
「ボクが知ってるよ。だって、ここはボクの故郷だもん」
「もしかして、いろんなこと思い出したの?」
「うん。魔導書の中から出れなかった時に〈砂漠の魔女〉と一緒にお話したんだ」
精霊であるファティマは自分のことに関して多くの記憶が抜け落ちていた。それが、いつに補われたということだ。
ファティマの案内でセイは長い梯子を登り、都市の天井に開いた穴に入り、ゴツゴツした洞窟のような場所を進んだ。そこで、セイはあることに気が付いた。
「ここってもしかしてワームの体内?」
「そうだよ。巨大なワームが洞窟になってるんだよ」
都市と地上を繋ぐ道――それはワームの体内だった。ワームの口が砂漠からの入り口となり、尻尾が都市の天井と繋がっていたのだ。このワームは普段は砂の中に潜り、都市への入り口を隠して守っていたのだ。そして、ワームの尻尾が埋まっている場所から、半径一〇〇メートルほどの範囲で、〈アウロの指輪〉を使うことによって入り口であるワームの口が現れる仕組みだったのだ。
ワームの口からセイとファティマが出ると、ワームは砂の中に砂煙と大きな音を立てながら帰って行った。
ここは砂漠のど真ん中だった。
そして、その照り輝く陽のもとで黄砂が舞い上がり、その奥で銀髪の少女が槍を持って佇んでいた。
「地下に隠れて居ったか……」
砂漠の陽のもとで、少女は冷たい月のように微笑んだ。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)