魔本物語
セイがそう言うと、クラウディアが椅子から立ち上がった。
「わたしも行くわ。魔導師の力が必要になるかもしれなし。ウィンディとナディールはここで国をモニターしてて頂戴」
ナディールは頷き、ウィンディも少し遅れて頷いた。しかし、ウィンディは不満そうな顔していた。
「俺だって本当はなにかしたんだよ。でも、もう無理だ」
卑屈になっているウィンディをクラウディアは鼻で嗤った。
「科学のことになると夢とか希望とかでいっぱいのクセして、こんな時はすぐにあきらめるのねあなたは」
ウィンディが言い返す前にクラウディアは部屋を駆け出して行った。その後をセイとファティマが追った。
クラウディアの横を走るセイが声をかけた。
「あの、道わかってるんですか?」
「大丈夫よ、管理室で宮殿のだいたいの道は把握したから、中庭とかでいいんでしょ?」
とクラウディアがファティマに顔を向けると、ファティマは大きく頷いた。
「うん、外に出れればいいんだよ」
宮殿内はすでに静けさに満ち溢れていた。もうすでに人々は非難してしまったに違いない。本当はセイもファティマも、クラウディアもウィンディもナディールも、早々に非難しなければならなかった。しかし、残ったのだ。
やがて三人は水と花々に囲まれる中庭に辿り着いた。細かく張り巡らされた水路に水がせせらぎ、花の香りがそよ風に舞う。風の女王を呼ぶには相応しそうな場所だった。
「そんじゃ、ご主人様は魔導書を出して呪文を唱えるんだよ」
ファティマに言われセイは首に提げていたバッグの中から魔導書を取り出した。不思議なことに、魔導書のページが風もないのに勝手に捲れ、目的のページを開く。そして、この世界の文字が読めないはずのセイに文字は読めた。読めたというより、頭に直接入ってくる感覚だった。
「我は汝を召喚する。おおゼークよ、我は至高の権威をよろいて汝に強く命ず……我が前にその姿を現したまえ!」
強風が吹き荒れ、花が散りて空に舞った。天高く舞う花びらは渦を巻き、陽の光を浴びて輝く。そして、何者かが逆光を浴びて舞い降りてきた。
羽の生えた透明感に溢れる美少女が、薄絹を纏って天から優美に舞い降りてくる。その姿を見たセイはこう呟いた。
「……天使?」
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)