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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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 ファティマは歩きながら空のずっと向こうを指差した。
「〈大きな神〉様はあの空よりもずぅ〜っと上に住んでるの。そこで〈大きな神〉様はボクたちのことを見守ってるんだけど、ただ見守ってるだけで他には何もしてくれないんだよ」
「見守ってるだけで困ってる人を助けてくれないの?」
「〈大きな神〉様はこの世界と多くの種族を創って、あとは善いことも悪いことも全部黙って見てるだけ、だから〈大きな神〉様を信仰してる人は少なくて、〈小さな神〉様を信仰してる人の方が多いかな。〈小さい神〉様はたまにだけどみんなの前に姿を見せてくれるからね」
 この世界には神が本当にいるらしい。セイのいた世界に神がいないというわけではなかったが、こっちの世界の方がセイには真実味があるように思えた
 この草原には多くの動物たちがいた。セイのいた世界にもいたような草食動物の類だが、あいにくセイたちの位置からは、向こうが警戒しているのか、こちらが避けて通っているのか、その姿をよく観察することはできなかった。
 ファティマの足がふと止まった。
「ご主人様気をつけて……イヤ〜な感じがする」
「イヤな感じ?」
「そう、例えば獰猛な怪物の雰囲気……って上か!?」
 巨大な影が二人を呑み込んだ。なにかが二人の上空にいる!
 顔を上げたセイが大声で叫ぶ。
「わぁーっ!」
「ご主人様怖いよぉ」
 腰を抜かして尻餅を付いたセイに、混乱に乗じたファティマが身体を摺り寄せてきた。しかし、状況はファティマがわざとらしくご主人様に甘えてられるような状況ではない。上空には巨大な翼を持った蜥蜴のような生き物が飛翔していた。
「あ、あれなに?」
 巨大生物を指差すセイの指が地面に向かって下がるとともに、大地が轟音を立てながら激しく揺れた。
 固い鱗に包まれた体長六メートルの巨大蜥蜴に翼が生え、頭には二本の角と口からは剣のような鋭い歯、長く伸びた爪で引っかかれたら一撃で即死するに違いない。
 巨大な怪物を前にファティマは突然口調を変えて説明をはじめた。
「説明しよう。あの巨大生物はドラゴンといい、大まかに分類するとスカイドラゴンという種類に分類される。補足を加えると、こんな草原でドラゴンに出くわすなんて珍しいことなんだよ、ある意味ラッキーだね! しかも子供のドラゴンだから可愛いね」
「ラッキーなんかじゃない! 可愛くもない!」
 セイの叫びを掻き消すようにドラゴンが咆哮し、巨大な舌を伸ばしながら二人に襲い掛かってきた。だが、セイにはどうすることもできなかった。
 その時突然、ファティマの身体が閃光に包まれ、セイの視界は真っ白になってしまった。
 ドラゴンの咆哮だけが木霊する――。
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)