小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
深川ひろみ
深川ひろみ
novelistID. 14507
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

贈り物

INDEX|4ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

【2 なるほど大臣の交際術】




 「貧乏徳利」西郷従道率いる国民協会は、結成後、しばらくして東京を発し、支持獲得のための遊説に出た。一行は東京からまず札幌へ入り、そして青森から秋田へと日本海側を下って山形入りし、旧庄内藩の城下町、鶴岡(現在の鶴岡市)まで南下した。そこから内陸へ入り、最上川沿いに山形盆地へと入った。そして、九月には、盆地の南北のちょうど中間地点に位置する東村山郡天童町(現在の山形県天童市)に到着していた。
 中山又吉は、鶴岡からこの一行に加わった。地元の農家出身の新聞記者見習いで、年は二十五歳。ちょうど戊辰の戦のさなかに生まれた。中山は兄二人、姉一人、妹一人の大家族であり、家での居場所を探しあぐねているところへ、知人のつてで地元の小さな新聞社に就職したのである。今はまだ、記者見習いというよりも雑用係のような事をしているが、一行に加わったのも、どちらかというとそちらの方であった。
 各方面の手配に忙殺されていた中山は、ここ天童の宴会で、初めて落ち着いて国民協会会頭、西郷従道を見た。
 そして、どういう男なのだろう、と首を傾げた。
 先ほどの演説会では弁士に叱責されたと聞く会頭は、ちょっと余人の追従を許さない酒豪だった。
 従道は酒盃を拒まない。五十人いようが百人いようが、求められれば誰彼問わずに酒盃を受け、きれいに干して平然としている。五十歳の伯爵などに負けてたまるか、と、時々血の気の多い若い衆が真似をしたりするが、早晩潰れて宴会場に屍(しかばね)をさらす。
 「なるほど大臣」の異名を持つ従道は、呑むときにはあまり物を食べない。名にし負う元内務大臣伯爵にお酌をしようと集まってくる人たちの酒をぐいぐいと飲み干し、話に耳を傾け、ひたすら「なるほど、なるほど」と相槌を打っている。議論を吹っかけようとしても、「ははあ、そうですのう」と呑気に笑うばかりで一向に話に乗らず、冗談を言って煙に巻いてしまう。秋田県の五城目(ごじょうめ)で行われた懇親会でも、「そげんこつ言われっと、こん達磨ば手も足も出ませんのう」とむうと口を結び、巨大な背を丸めてゆらゆらと揺れてみせ、その姿が余りにも滑稽だったので、一同爆笑のうちにうやむやになってしまったという。
 国民協会というのは、一応は政治結社ではないのか。演説会では無駄話をして弁士に叱られ、自ら演説の一つもなさず、経綸(国家政策)も語らず、ひたすら酒を飲んで都都逸を唸りカッポレを踊っているこの男を会頭にするとは、議員先生たちは一体何を考えているのだろう。
作品名:贈り物 作家名:深川ひろみ