贈り物
【5 露と消えなん】
軍人としては元帥海軍大将、華族としては侯爵に昇った西郷従道は、明治三十五年七月十八日、自邸において逝去した。胃癌であった。
従道はかつて親友の大山巌と共同で、栃木県の那須野が原を開墾し、その開墾場を「加治屋開墾場」とつけた。「加治屋」は従道が生まれ育った鹿児島の地名である。開墾を始めた当時、兄隆盛に敵対した従道に対して、郷里鹿児島の人々の眼はまだ相当に冷たかったから、そこにかれの望郷の思いを見ることは難しくはない。死の一年前、従道はかの地で死にたいと東京を出てこの開墾場へ赴いたが、病状の悪化を懸念した家族によって連れ戻された。
それもまた、西郷従道という男の一つの側面である。