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Under the Rose

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02.通り雨(3/4)



天気予報はぴたりと当たり、午前と午後が切り替わる直前に雨は止んだ。
そのため、夜になる頃には地面はわずかな水たまりを残しているだけで乾いている部分も少なくなかった。
走り回るには少々邪魔かもしれないが、そう気になるほどでもない。

雨上がりの、独特のしっとりとした雰囲気が街を包む。
そこに夜の闇が重なり、人気のない路地には肌に刺さるほどの冷たい風が吹いていた。
「桂ちゃん、待ってよ」
白い傘を片手に、先を歩く妹をぱたぱたと小走りで追いかける沙耶。
黒のロングコートの裾を揺らせながら、解けかけた胸元のリボンを結びなおそうと手をかけた、その時。
「はわ」
ばちゃん、と水のはねる音。つまずき、転びこそしなかったものの片足を思いっきり水溜りに突っ込んでしまった。
その音を聞いて、ようやく足を止める桂。
「姉さん」
「あはは、だいじょぶだいじょぶ」
「違うわ、姉さん。わからない?」
「え? 何が?」
何か言いたげな様子で、視線を二度三度横へ流す。
沙耶もそれに合わせて視線を動かすが、特に何も異変は見当たらない。
「……今日のかくれんぼの鬼は、電話で聞いた限りはこの辺りのはずなの。何か感じないかしら、と思って」
「……」
「……」
沈黙に包まれた二人の間を、冷たい夜風が通り抜けていく。
それ以外には何もない。風が吹くたびに、ざわざわと遠くで木の葉が擦れているだけ。

「(この前の、あの記憶……)」
思考を巡らせながら桂の見た先は、明かり一つない真っ暗闇。
隙間から猫かなにかが顔を出してもおかしくないが、どうやら今夜は誰もいないらしい。
「(場所は違う。違うけど、なにか似てる……)」


作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴