Under the Rose
00.Epilogue
夢のような、慌ただしい現実が終わり、何度も朝が来て――そしてまた必ず夜が訪れる。
螺旋のように連なる時間を与えられ、それでも変わりなく日常は続いていく。
夜明けに近い闇の中を歩く、一つの影があった。
真夜中の漆黒に塗りつぶされたような暗い服、同じ色をした長い髪。
手には花束を抱いており、中でも目を引くのは真っ白なゆりの花。
「……」
どこから生まれ、どこへ行くのか。
静かに足音だけを響かせていたが、やがてその人影はゆっくりと振り返った。
憂いを含んだ表情――そして、深い赤に満たされた二つの瞳。
今にも泣き出してしまいそうな、そんな悲しみを覆い隠すようにして、わずかに微笑んでみせる。
また、前を向いて歩き出す。
何度目かも知らぬ手向けの花束を抱えたままで、静寂に沈むざわめきに背を向け歩き出す。
『人間に生まれさえすれば、こうやって最後の一人となることもなかったのに』
そんな諦めにも似た理想を捨て、一人静かに示すのは訣別の合図。
音もなく、またいつものように夜明けの時が訪れる。
眩しく、そして柔らかい春の陽光が世界を迎え入れた時――道の上に彼の姿はなかった。
作品名:Under the Rose 作家名:桜沢 小鈴