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茅山道士 かんざし1.5

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館の別室では青竜王と白、黒、青の麒麟たちがまた茶会をしていた。今度は暇にあかせたわけではない。“麒麟たちの関わっている一件”についての報告会である。ここでも黒麒麟は終始無言で白麒麟が淡々と事実を説明している。
「そうか、あれがやらかしそうなことだ。おちゃらけ仙人め。」
 ケラケラと笑いながら青竜王は事の次第を聞き終えて立ち上がった。
「お帰りですか。」
 白麒麟は解放されると喜んだが、相手は麟の様子を見に行っただけである。
「策明兄。どうしてそういうことを俺や他のものに話してくれないんだ。水くさいじゃないか。」
 青麒麟もそう言って立ち上がり、こちらは散歩に出駆けた。
「だがな、おまえたちまで割り込んでこられては、些か面倒なことになるのだよ。」
 邪魔者が去ってから白麒麟は溜め息をついて呟いた。
「どうするね。角端。麒麟はもともと長はいないが我々が一番の年長者だ。かまわぬように皆に言うか。」
 話の間中ぷいとよそを向いていた黒麒麟は明後日の方向を見たまま、「捨て置け! 西王母様が命令される。」 とだけ言った。おそらくそうなるだろう。転生して人界に降りた仙人に珍しさだけで他のものがちょっかいを出すようなことは西王母が許さない。すでに、かんざしを与えた王夫人は自室で謹慎するよう言い渡されている。一番末娘の王夫人をたしなめているからには他の者も同様だろうと角端はふんでいる。ちょくちょく様子を見に行けなくなるが、逢う度に成長している麟を見るのも楽しいだろうと角端は思った。西王母の命令など何処吹く風である。
「そうだな。黙って逢うにはどうということもない。あやつらがしゃしゃり出なければそれでいいんだ。」
「おまえもだ。」
 策明が自分と同じことを考えているので角端がたしなめた。
「おまえだけが逢うのはずるいぞ。二人で行こうな。角端。」
 策明が笑っているのを見て、聞分けのない奴だと角端も微笑んだ。
 幾度か目覚めその度に薬を与えられた麟はなんとか熱も引き、後は傷口がきっちりとふさがるのを待つだけだった。何時目覚めても側には以前一度だけ逢ったことのある仙女が付き添っており、心配そうに顔を覗き込んでいた。一体誰なんだろう…目覚めて意識がはっきりとしてくる度に相手に尋ねてみるのだが、相手は微笑むばかりで答えをくれない。ただ、その仙女は親しそうに自分を世話してくれる。それが妙に心落ち着くのはなぜなのか麟にはわからなかった。右手も右肩もまだドクドクと音がしそうなほど熱いが目覚める度に少しずつ熱が冷めていくのがわかる。麟がぼんやりと仙女の顔を眺めていると、顔見知りの仙女が部屋へ入って来た。仙界のナンバー2上元夫人である。手には包帯と薬を持っている。
「そろそろ包帯を緩めてやりませんと。」
 うつぶせに寝かされている麟の側に上元夫人が歩み寄った。その姿を眼にして慌てた麟が飛び起きようとして呻いた。熱が下がったとはいえ肩の肉を抉られているのだ。すぐに動けるはずがない。
「さあ、まず手のほうから。」
 スルスルときつめに縛っていた包帯を上元夫人が解いた。そこにはくっきりと一筋の傷がついていた。刃物を握ってつけた傷だ。血は流れはしないが傷はまだ乾いていない。しばらく握ることも文字を書く事もできないほど深い傷だった。
「そうそう、だいぶ熱で汗をかいたから服も代えたほうがいいでしょう。」
 側につきっきりだった仙女はパタパタと表へ飛び出した。
「上元夫人様。」
 麟は手に包帯を巻いている仙女に今出て行った仙女は誰なのか尋ねた。少々困った顔をして上元夫人はそっと小声で、「あれがこの館の主です。」 とだけ伝えた。
「心配しているのは兄弟子のことでしょう。そちらには伝言をしてあります。おまえは自分の傷を治すことだけを考えなさい。」
 そう言って包帯を巻き終えたところへ真新しい寝間着をもった女主人が入って来た。
「私くしはあなたのことを何とお呼びすればよいですか。」
 麟は西王母をまっすぐに見上げて尋ねた。うーんと相手はひとまず考え込んだが、「『お母さん』ではどうかしら? 」とクスクス笑いながら提案した。
「意識のはっきりしていないとき、麟はずっと私をそう呼んでいましたよ。どうです。そのまま呼べば、私くしも自分の子供がいるようでうれしいことです。」
「失礼ではありませんか。」
 自分が無意識とはいえ恐れ多くも仙女を母親扱いしていたことに麟は驚いた。しかし、仙女のほうはすでにその気である。
「傷が治るまで、私くしがあなたの母です。なんでも言うことをきいてくださいね。麟。」
 助けを求めて道士が御馴染みの上元夫人を見たが、呆れたように、「そうおっしゃってるから」とそのまま受け流した。
「さあ、着替えてしまいましょう。起きれますか、麟。」
 まだ自力では起きれない。支えになる右手と肩に力が入らない。左手で身体を起こそうとするがうまくいかない。仙女が二人がかりで抱き起こし上衣を脱がせた。きつめにしめていた包帯にはかなり血が滲んでいる。
「申し訳ないことをしましたね。王夫人がかけた情けがかえって仇になってしまって……」
「いえ、こちらこそよけいな心配をおかけしてしまって申し訳ありません。どうか王夫人様に麟が謝っていたとお伝えください。せっかく心配してかんざしを授けてくださったのに、こんなことになってしまいました。私が大切な預かり物を兄弟子にみつけられてしまったのが、ことの起こりです。本当にすいません。」
 どうしてこうなったかを麟は手短に説明した。どう考えても自分が悪いのだ。油断して兄弟子の眼につくところへ大切な預かり物をほっておいたのだ。緑青が好奇心から開けてみることは容易に想像がつくことだ。若い道士が今までの経緯を話し終えて沈黙すると、西王母はそっと麟に上着をかけてやりながらこう言った。
「それはおまえも悪いですね。兄弟子を思うならどうして一緒に行かなかったのです。そうすればこんなにひどい怪我を負うこともなかったでしょう。」
「そうですね。私の考え違いでした。自分でなんとかしょうと独りよがりになってしまいました。この傷は良い教訓です。」
「そうですよ。兄弟子のことを心配するのはよいけれど、それが逆に兄弟子を不安に陥れてはいけません。今後気をつけなさい。」
 はっきりと自分が悪いと言われるのは罰の悪いものだ。しかし、それが本当に自分を心配して叱ってもらうのはある年齢になると嬉しいものだ。麟もこの仙女がちゃんと叱ってくれるのに安堵した。「はい、気をつけます。」
「よろしい。さあ、終わった。横にしてあげましょう。上元、手伝ってください。」
 また二人がゆっくりと麟を横にしようとしたが、本人が止めた。「待ってください。あの…王夫人様に逢わせていただけませんか。逢ってお詫びが言いたいのです。」
「まだダメです。」
 有無を言わさず西王母は麟を横にした。
「もう少し良くなったら逢わせてあげましょう。王夫人もあなたに逢いたいと言っていましたからね。」
 着替えたものと代えた包帯を持って上元夫人は出ていってしまった。また麟はトロトロと眠り、西王母が付き添っていた。そこへ敖家の長男がひよっこりと部屋へ入って来た。
「まだ、お話は無理なようですね。」
作品名:茅山道士 かんざし1.5 作家名:篠義