掌編集
「兄弟」「食事」「ケンカ」
「兄弟」「食事」「ケンカ」
皿の上に盛られたステーキが、鉄板の上にいた余韻を響かせ小さくじゅうじゅうといっている。
僕はその音と匂いに心をときめかせ、一突きする。肉汁があふれ、僕のところまで届き幸せな気持ちになる。しかし、肉を断ち切るナイフが金属音を立てたので一瞬で冷めてしまった。
僕はその切り分けられたステーキを突っつきながら、そっと警告した。「そんな変な音やめてくれない?食事する気が失せるんだけど」
キュッ、とナイフが音を立てるのをやめようともせずに、
「うるせえよ。切り分けてもらってる身で生意気言うな、こんなちっさい音で気分を害されるとかどんだけ神経細いんだよ」
明らかにこちらの反感を買う気である。これは見過ごすわけにはいかない。
「切り分けてもらってる?切り分けることしかできないんでしょ?」
「ケンカふっかける気か?兄弟だからって容赦はしないぜ?」
「それはこっちのセリフだよ」
またキュッ、と音を立てる。新たにステーキの一部を切り分けた瞬間、僕はステーキを突き刺すと同時にナイフの刃の部分に体当たりをかます。僕が肉を手放した瞬間、待ち構えたようにナイフが上から僕を押さえつける。
新たな一戦を交えている皿の上、その上空に僕らナイフとフォークを操っている人間がいて、満足したようにナプキンで口元をふいているのが見えた。