掌編集
「ハサミ」「雷」「コーヒー」
「ハサミ」「雷」「コーヒー」
ごろごろ…ジョキ。
雷の音に被せるように意識しつつ、ハサミを走らせる。
日付も変わったというのに、未明から鳴りだしたその音は変わらず腹の底にまで届く。
いつもならばコーヒーを摂取しても船を漕いでしまう時間帯だが、どうにも雷の音が気になって眠れない。ちょうど洋裁の課題が残っていたので、こうしてパジャマ姿でハサミを操っていたのだった。
がらがら…ジョキン。
雷の音もやがて気にならなくなった。ハサミの音しか聞こえない。
女の子は器量がよくなくちゃ、というのが母親のしつけのモットーだった。
最初に作ったのは、お気に入りのお人形の衣服。
一人では重くて持ち上げられなかった大きなハサミを、母と二人で握って布を裁つ感触を知った。
新しい服を着せられたお人形が喜んでいるように見えたことを、今でも覚えている。
今でもベッド脇に大切に置いているその人形は、今日もハサミの舵をとり布の海を進んでいく。