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出された手紙

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 誰もいない夜道の静寂に寂しさや怖さよりも安心を感じてしまう。この孤独な暗闇の世界こそがわたしの居場所のような気がする。

 今にして思えば、グズでノロマで地味で陰気だったわたしが(高校では友達を作りたい)などと思ってしまったのがいけなかったのだろう。中学の頃のようにクラスメイトの視界に入らないことに全精力を注いでいれば良かったのかも知れない。
 ある日、会話の途中で「笑い顔が気持ち悪い」と指摘されて以来、わたしの挨拶に返事をしてくれる子はいなくなり、体育でペアを組むことも理科や家庭科でグループに入ることも出来なくなった。やっと声を掛けてくれた子からお願いされて何度か万引きをしてからは”犯罪者”という渾名が付けられ、教師からも両親からも見放された。ノートや体操着が切り刻まれていることも、机の中に生ゴミやら何かの死体やらが入っていることも、制服で隠れたわたしの身体に痣や傷があることも日常の出来事だった。わたしがいつ死ぬかという賭けが行なわれていたので、登校すると必ず誰かに舌打ちされた。
 今でもそうした光景が脳裏に焼きついて離れない。それらは”今”と切り離された”過去”ではなくて、わたしの人生全てに滲み込んでいる。

 同窓会に参加したわたしのバッグには使い慣れた包丁が入っていた。

 別に今さら奴らを殺してやろうと思っていたわけではない。殺す価値もない屑どもだったから。ただ、あの頃と同じようにわたしに接してきたら少し思い知らせてやろうと考えていた。わたしと同じように二度と消えない傷が残ればそれで良かった。
 でも、同窓会での奴らはあの地獄が幻であったかのように普通の笑顔でわたしを迎えた。そして、あろうことか当時の虐めの首謀者だった後藤麻美は小声で「ごめんね」とわたしに告げて目を潤ませていた。そう、いつの間にか屑どもは真人間になっていたのだ。過去の罪悪感から逃れる為の善人面。あの頃は確かにわたしの方がまともな人間だったのに、今でも壊れたままだったのはわたしだけ。その時、初めて本当の殺意を覚えた。

 ほとんど無意識にバッグを開けようとしていた手を止めたのは「遅れてごめん」という懐かしい声。
 カジュアルなスーツ姿の彼を見上げながら、わたしは学生時代をぼんやりと思い出していた。夏休み明けに彼が転校してきた時も、わたしは自殺する準備を終えていたのだった。
 でも、彼はわたしを救ってくれた。クラスの空気を無視してずっと普通に接してくれて、彼と友達になった人もわたしに笑顔を見せるようになった。教室に充満していた悪意も彼だけは飲み込めなかった。
 もちろん、彼が知らないところで陰湿な虐めは卒業まで行なわれていたけれど、わたしは本当に幸せだった。彼のことが大好きだった。彼だけは特別だった。だからこそ、卒業前のバレンタインデーにチョコを渡すなんていうこともしてしまったのだ。中学の時には部活の先輩に目の前で踏み潰されたチョコを彼は優しい笑顔で受け取って「ありがとう」って言ってくれた。その時、わたしはこのまま心臓が止まればいいと本気で思っていた。

作品名:出された手紙 作家名:大橋零人