看護師の不思議な体験談 其の十七 『春のホタル』
お孫さん夫婦のもとでの生活が始まる。息子さんには会えないまま。
Kさんは、息子さんが迎えに来られるのを待っていたのだろうか。
それとも、もしかして、来ないでくれと思っていたのだろうか。
『何もしてやれんから。』
Kさんの頼りない声を思い出す。
あの夜。ホタルを一緒に見た夜。
一瞬、Kさんは認知症ではないのでは、そう思ってしまった。
Kさんがこれまで、どんな人生を歩んできたのか、そしてこれからどうなっていくのか、私には知ることはできない。Kさんにとっての幸せは、どんな形かも分からない。
ベッドの豆電球を見つめながら息子さんの事を話していたKさん…。
これからの人生がKさんにとって、少しでも…、ホタルの光となるような幸せがありますように…。
私たち医療現場の者にできることは、そう願うことだけ。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十七 『春のホタル』 作家名:柊 恵二