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Merciless night 第二章 プロローグ

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 またも俺の方に向く風を利用し付加魔術を使おうとしているが、……それは正しいとは思えない。
 今この空間内では魔術を行使する際、元々空間内では魔力使用量は二倍であり、それにに加え先ほどの呪詛により二乗倍、四乗倍の魔力を使用しなくてはならないからだ。

「クッ…………。俺を……魔力で押しつぶそうってか。フッ……いいじゃねぇかぁ」

 それでも、敵は倒れることなく、自身の魔力が魔術に食われながらも、行使を止めようとはしない。
 死にたいのだろうか?
 魔力の使用限界はきているはずだ。
 その証拠に敵の廻りの魔力は歪み始めている。
 普通なら体が勝手に制御しているものなのだが。
 それすら出来ない状況は体と自身の保有する魔力量の限界を現している。
 そこまでして敵は何がしたいのだろうか?
 何故戦おうとしているのか、すら分からない。
 俺は敵の仇敵であろうが、それに対する言葉を持たない。
 それは俺に感情に関する言葉、頭が足りないからだろう。
 俺自身にも罪の意識はない。
 ただ上から命令され、それを俺はそつなくこなしているだけなのだから。
 
そこに俺の意思はない。

「…………これは、助けることが……出来な、かった……彼女への、せめてもの……報いだ」

 敵の手に集められる風の束はやがて形を成し、風により創られた一つの弓は一矢を番え俺に的を据える。

「……Tirez-le」

 敵の弓より放たれる矢。
 風の向きを実直に現したその一矢は上級魔術に匹敵する威力だろう。
 しかし、所詮は級に属す、若しくは匹敵するだけ。
 この右腕は……それに捉われることがない。

 何モノにも属さない『儀装魔手』は魔術を捕まえる。
 風に使われる魔術要素は“向き”。矢に使われるは変異装填魔術の応用。
 この右腕に敵の魔術行使想定原理回路を構築、組み換え、読み込みを行い、その矢の向きをこの手で制御させてもらう。

 流れくる矢を掴む。
 その矢には敵の感情ほどの重さはなく、俺に対する憎しみでさえも感じられない。
 それもそうだ。
 これはただの魔術により行使された存在なのだから。
 それに感情など乗るはずはなく意味もなさない。

 感情などあるだけ無駄だ。

 さっきも言ったようにここで時間を食うわけにはいかない。
 矢の向きを敵の向きへ変える。
 当然のように矢は敵を的に捉える。
 敵は消費した魔力が大きすぎ、その負荷に身動きをとることは出来ないだろう。

 俺は敵の結末など興味はない。
 その意味も含め瞼を閉じている。
 把握する情報は心臓の鼓動音だけで十分だ。

 ………………とそこに。

 ―――――――不意に爆音が轟く。

 その瞬間、火がその場を埋めていく。
 辺りを赤く染めている炎はゴウゴウと燃え敵の鼓動音を掻き消す。
 この状況では敵の生死を確認することはできない。
 他の敵の接近に注意していたはずだったが、風に注意していて気づかなかったかもしれない。
 それにしても、目の前に見えるこの火の魔術はこれまで見てきたモノとは違う。
 この『儀装魔手』でさえ触れることができない。
 どうやらギガスでは取り扱わない魔術系統らしい。
 にしても、この状況では行動が制限される。
 敵を完璧に仕留めることが出来なかったのは惜しいが、ここはこの火を有効に利用して街に消えるとしよう。

「解除」

 声と共に結界は消える。
 『御守星』の大体の力は把握したがそれほど脅威ではない。
 となれば、まずは裏切りモノであり戦力となり得る……

 ――――――真隼(みはや)を殺す