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Merciless night 第二章 プロローグ

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 銀に輝く短髪の割に、目の下にはひそめるようにクマがある。

「折角フードを取ってやったって言うのに……いつまで目を瞑ってんだ?」

 そうだな。
 恐らく目の前にいるのは『御守星』だろう。
 となれば、瞼を閉じたままでは不遜か。
 それでも瞼を開けるには値しないが。

「ほぅ……俺相手に余裕ってことか。嘗めてくれるな……リゼル」

 俺に対し恨みを含んだ口調でなお、攻撃を仕掛ける気配がしない。
 身構えたまま動かないのは俺の様子を窺っているのか?
 それとも、何か違うものを待っているのか?
 ここの魔力を辿れば近くに増援がくる気配はない。
 瞬間的に敵が来るとも予想が出来るが、本当の一瞬での移動は聖クロノス様ぐらいだろう。
 さて。相手が動かないのであればこちらから動こう。
 右腕を前に伸ばし掌を上に向け開く。

「結界(重魔力負荷領域)」

 一定区域を俺の結界で包む。
 この行動は味方への合図であり、敵への挑戦状でもある。
 だが、俺の持つ“結界”の本当の意味を知らなければ勝てないだろう。

「ハハハハハハハハ。いいねぇ、“結界”って。もしかしてカッコつけてんのか?初級魔術師でさえ“結界”なんて口にして結界を張らねぇのに。いいぜ。そんなに格好つけたかったら死に様も格好つけて見せろよ、ハハッ」

 やっと敵は攻撃の構えへと移る。
 何かを掴むように横に伸ばされた右腕は何かを持ったまま、奴は彼我の距離を一瞬で詰めようとする。
 その速度からするに脚に何かしらの付加魔術を使っているのは確かだろう。
 付加魔術は種類にもよるものの初歩的な魔術。
 魔力消費はもともと少なく熟練者ならばより魔力消費は少なくなる。
 そのため汎用性は高く使い勝手もいい。
 極稀な場面では不利になるが……。
 付加魔術は低コスト故に解除せずそのまま唱えた状態にする魔術師も多い。
 その方が戦いを有利に進めることが出来るため。
 だから、俺はその盲点を突く。
 今は“俺だけ”が魔力を消費する訳にはいかないからな。
 空気を切り攻撃してくると共に俺は後退する。
 俺が元いた場所は敵の攻撃により地面が曲線のように抉られていた。
 大体その地面の痕から武器が分る。
 曲線状に地面が抉れているため武器はおおよそしなるもの。
 剣とも取ることが出来るが、抉れた方が均一なため剣であれば抉れている部分に浅い深いがある。
 となれば、ムチ状のものかもしれない。

「チッ、避けやがる。やっぱり見えてやがるのか」

 再びの接近攻撃。
 先ほどの攻撃からリーチは読めている。
 その範囲内に入らなければ避けるのは簡単。

「ちょろ、ちょろ避けんじゃねぇ~よ」

 敵の握る何かのリーチは予想を超え範囲はでかく回避が間に合わない。
 辺りの建造物は綺麗に切り裂かれていく。
 武器を振る早さはそこまででもなく、ムチならば切裂くなど到底無理な速度。
 全長20メートルはあろうその武器は障害物を薙ぎ払い俺に迫る。
 このまま相手の攻撃を誘い逃げ続け嬲り殺そうと思ったがそうはいかない。
 俺は敵の武器を前に右手を翳す。
 翳した部分以外武器は空気を切り進む。
 手に掴むモノ。
 それは魔術により返還された魔力でもなく、透明に付加された武器でもなく、“風”だった。
 仕組みは分らないが敵は風を操っている。
 その割には攻撃のモーションに微かな戸惑い、感覚を掴むといった間が窺える。

「なんだ、その武装したような右腕は?何故切り刻まれない?」

 武装した右腕。
 そうだな。これは追加装備みたいなものだ。
 人が武器を持つのと同じ。
 これも武器の一つ、『犠装魔手』。
 今回は使わない予定だったが、現状使わざるをえない。
 
「チッ、無言かよ。その余裕そうな顔がムカツクんだよ」

 敵は両腕を横に伸ばし何かを操る様に手を動かす。
 言うまでもないが敵の操っているものは間違いなく風なのだが、風を操っているならば単純に俺に接近する必要はない。
 遠距離からの攻撃で構わない。
 さっきのような武器を幾つもつくり攻撃するだけでいい。
 それをしないということは……いや、出来ないならば風を操る能力は風を具体化させた何かを操る能力となる。
 そう考えれば敵の何かしらの攻撃の間も納得がいく。
 ヒュ、ヒュー。辺りから風の音が増す。
 まだ敵の能力が判明しないだけにこちらも動けない。
 吹き抜けていく風。
 建造物が破壊されたことでより吹き抜ける。
 吹き抜ける。

「安定性は失うが威力は時たま半端ねぇのが来る。やっぱりここで事構えてよかったぜ……。おいリゼル……にてめぇいいものを食らわせてやるよ」

 敵は操作を終えたのか横に伸ばしていた両腕をだらりとさせる。

「毎日……毎日この日を待っていた」

 刹那の静寂の後、風は動き始め一陣の刃となり俺を襲う。
 風に付加されている魔術原理は大まかに把握し右腕で防げるはずだったが、俺を襲う風を相殺することは愚か、受け止めるので精いっぱいだった。

「あいつが殺されたことを知ってから、ずっと俺は見えない影を追い続けてきた。そいつに復讐するためだけに……」

 今度は同時に同威力を持った風の刃が飛んでくる。
 相手の魔術での攻撃を右腕で相殺出来ないのは俺の予測した魔術原理が間違っているからだ。
 ならば、何が敵の魔術の本質なんだ?
 取り敢えず敵の言動から探すか。
 いや、そんな時間はない。
 一旦、意識を飛来する風に移す。
 右腕で受け止めている風を制御し手中に収める。
 そして、飛来する風を同じ風で相殺していく。
 一通りの風の掃討はしたがもう相殺できる素がないため、もう一度同時に風が来れば終わりだ。

「そして、今だ。……ここにやっと、ここでやっと……全てを終えてやる」

 あれだけ魔術を使って疲れがないとは。
 魔力消費が少ないのだろうか?
 風に何かを付加させることで消費を抑えているとしか思えない。
 まず風は吹いていなければ風にはならない。
 吹いていなければ……。
 
 “吹き抜ける風”

 頭に答えが出る。
 ここは路地裏であり、周囲の建物により風が遮られる。
 そのため風は時折吹き抜けるだけ。
 敵の僅かな攻撃の間はそれだ。
 そして辺りの建物を壊した理由もそれだ。
 より多くの風を呼び込むため。
 そして、風の“向き”を操ることでより強力な武器を造り攻撃手段に変えることが出来る。
 向きを付加するだけなら、そうそう多大な魔力を必要とすることはない。
 そしてデメリットは素である攻撃方向へ吹く風が必要なこと。
 理解した。

「いい加減死んでもらえるか?Je suis taciturne」

 同時に吹き抜け襲いかかる数百の風の刃。
 だが、俺もここで時間はかけたくはない。

「Quadrat(過魔術使用重圧)」

 意識は刃に向け右腕で相殺しつつ、もう一つ負荷呪詛を唱える。

「Biquadratic(超魔術使用重圧)」

 流石にここまでしたのだから相手には気づいてもらいたい。
 今置かれる自身の状況を。

「何なんだよ、お前はっ……。いきなり俺の大切なものを奪って。俺とあいつのために死んでくれよっ」