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海竜王 霆雷 顔見せ2

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「顔見せ」には、竜族のお歴々が呼ばれる。まずは、先代の竜王、水晶宮の主人夫婦、それから、現竜王の配下である大司馬、大司空、大司徒の重役たちだ。それだけでも、かなりの数となるし、それに附随するものや、役職には就いていないが、それなりの発言権を持っているものも集うことになる。先代竜王たちの子息たちが、それに含まれる。そして、これが一番、文句が多いのも事実だ。役職にはきまりで就けないのだが、竜王の子息であるから発言権はある。
「まあ、先代の黒竜王のご子息が五月蝿いと思われますね。」
 対策を立てている相国は、ふむと、一番文句が出そうな相手を名指した。
「くくくくく・・・派手に道化役になればいい。」
 それについて、紅竜王は含み笑いを漏らす。誰もが、人間界から婿入りした小さな竜だとしか知らない。過去、霆雷が、現西竜王の配下を叱責だけで退かせたほどの迫力を誰も知らないのだ。それを知らしめるには、またとない相手である。
「おまえの時は、文里叔父上が、その役をやらされたことだしな。今回は、お出でにならないだろう。」
 先代の長は出嫌いで、公式の行事にも、ほとんど顔を出さない。最近では、すっかりと隠遁生活に浸りこんでいて、よほどのことがない限り顔を出すことはない。現水晶宮の主人が、代替りして、立派に、その職務を遂行できるようになった時に、完全に隠居すると宣言したからだ。
「ですが、できれば、文里様には、あの『水晶宮の小竜』を楽しんでいただきたいと思います。」
 だが、今回は、できれば、顔を出して欲しいと、丞相は願っている。たぶん、単純に楽しいと思われるだろうという理由と、騒ぎが生じた時に手助けを頼みたいという理由からだ。
「うーむ、父上に誘っていただくとするか。・・・深雪、おまえから父上に書状を送りなさい。」
 出不精な文里には、親友でもある白那から強引に誘わせるほうが、出てくる可能性が高くなる。それに、深雪からの書状まであれば、重い腰もあげてくれるだろう。
「兄上、それは、王夫人様宛の書状ですか? 」
「いや、おふたり別々に差し上げるんだ。美愛に届けさせると効果的だろう。」
「それから、父上にもな。無理にでも捕獲して欲しいと頼めばいい。」
 ある意味、悪巧みになっているが、先代の長には、これぐらいしないと動かないから仕方がない、と、深雪も思って苦笑する。自分の時も、そうやって無理矢理に連れ出されていたと、後から聞いた。



 留守にしていた華梨が戻ってきて、「顔見せ」についての、細かいことまでが、取り決められた。私のいない間に、なぜ、話を進める、と、華梨は憤慨したものの、先代に対する悪巧みには、大いに賛成した。
「もちろん、水晶宮の次期主人の顔見せなのですから、先代の文里叔父上に出向いていただかなければなりません。それから道化役も、それでよろしいかと思います。何事もなければ、それまでのこと。もし、何かあれば、私くしが容赦なく叱りつけますので、背の君は、何も心配されることはありません。」
 万事、この私めが、と、華梨が胸を張る。もちろん、言葉でなら、それでいいと深雪も思っている。ただ、「水晶宮の小竜」が暴れたら、自分が止めることになるんだろうと考えているだけだ。
「二週間後ということで、触れさせる。それでいいな? 華梨。」
「はい、それで結構です、伯卿兄上。」
「今回は、一族のみだから、威には、それまでに帰るように伝えてくれ、深雪。」
「ええ、それほど長くは滞在しないでしょう。ただ、気になるのは、東王父様と西王母様のことです。あの方たちが、黙って顔見せを無視されるとは思えない。」
 「顔見せ」は、一族のみに披露することだから、他の一族は、その場に並べない。だが、それを無視してやってきて、退けられない相手であるのが、このふたりだ。神仙界の重鎮たちに、「あなた方は一族ではないから、お引き取りください。」 とは、さすがに言えない。
「・・・来るだろうな・・・」
「ええ、間違いなく。深雪の時だって、さくさくとやって来られたし、一月も滞在されて、上元夫人が嘆いておられた。」
「でしたら、『顔見せ』には並ばずに、私宮で対面ということで、背の君にお願いしていただければ、どうでしょう。背の君のお願いでしたら、お二方もお聞き届けくださいますでしょう。」
「東王父様はね。」
「いえ、西王母様にも特典を差し上げれば納得してくださいますよ? 背の君。」
「特典? 」
「はい、背の君の添い寝をしていただくということでしたら・・それはもう、一も弐もなく。」
 華梨の提案に、青竜王も紅竜王も相国も丞相も、うんうんと頷く。どちらとも幼少の頃、添い寝を所望されたのに、深雪が突っぱねてしまったからだ。
「・・えーっと・・華梨・・・私は、もう、いい大人なんだけど? 」
 特典にされる深雪が、がくりと肩を落とした。
「ほほほほ、あのお方たちにとっては、背の君は、まだ可愛い孫ですもの。とても喜ばれます。」
「主人殿、今でも、東王父様は、あれができなくて残念だったとおっしゃいますから、それは妙案ではないでしょうか。」
 相国が畳み込むように、そう告げれば、「わかったよ。特典にすればいい。」 と、深雪も頷くしかない。今だに、そのことが悔やまれるらしい東王父も西王母も、相国に愚痴るからだ。
「では、そのようにお誘いさせていただきましょう。太傳にでも、託けを運ばせます。」
 問題があるのは、それだけではない。後見のこともある。それは、当人方たちと相談してみよう、と、深雪のほうも折れることにした。兄たちに相談すれば、東王父と西王母に頼め、と、言われるのは目に見えている。だが、それでは、他の申し出を断らなければならない。できれば、穏便に済ませたいので、その方法を相談するには、神仙界を知り尽くしていると言っても過言ではないふたりが適任ではあるだろう。






 「顔見せ」に招待するものたちに、書状を届けさせて、一週間、やはりやってくるのは、予想通りの陣容になりそうだった。
「威、そろそろ帰れ。」
 さすがに、彰のほうは、玉座について間もないので、早々に退散したのだが、天帝の子息である威は、これといって急ぐ用件もないので、いつものように居座っている。
「別に、『顔見せ』に出なければ、ここに滞在していても構わないだろう。追い出すなよ。」
 また、これが独立独歩というか唯我独尊というか、自分の気分次第で動く性質なので、「帰れ」 と、言ったところで動かない。執務室の片隅に居座って、深雪の話し相手をやっていたりする。ほとんどの仕事は、水晶宮の幕僚たちがやってしまうから、今のところ、深雪も暇といえば暇だ。接見する用件があれば、それなりに忙しいこともあるが、それすら、基本的には、妻の華梨が一人でやってしまうから、よほどの相手か、指名されない限り、水晶宮の主人が出て行くことはない。
「おまえの姿があると、いろいろと五月蝿く言う御仁が目白押しなんだがな? 威。」
「はんっっ、おまえが、『それが何か?』って微笑めば、それで済むことだろう。竜族最高次位のおまえに文句を言うやつの気がしれない。」
作品名:海竜王 霆雷 顔見せ2 作家名:篠義