海竜王 霆雷 顔見せ1
「勝ち負けのことではありません。兄弟の絆がしっかりしていれば、戦うことなんて起こりません。父上、冗談でも、そういうことは・・・」
「だいたい、ご自身は、どうなんです? 青竜王や紅竜王の過保護さは、私たちの耳にも入っておりますよ。」
もちろん、同じ立場だった水晶宮の主人は、そんなことをされたことはない。それよりも過保護すぎる世話をされて、猫可愛がりされていたというのが、昔からの語り草になっている。
「私と霆雷では、境遇が違うからね。私は、身体が弱くて、とても兄上たちに逆らえる力なんてなかったから、過保護になっていただけだ。」
「よく言う。最初に、私の手を噛んだのは、おまえだよ、深雪。」
「はははは・・・私は、おまえに足を噛まれたぞ。」
紅竜王と青竜王が、二人して、深雪の痛いところへ突っ込む。竜に成り立ての頃に、混乱して止めに入ったふたりに乱暴を働いたことがある。
「兄上たち、申し訳ありません。私は、あまり古いことは覚えておりません。・・・とりあえず、霆雷を頼むよ、陸続、焔放。」
あまり深く語って欲しくないので、早々に息子たちに退出を促した。確かに、あの生まれたての状態で、竜族最強のふたりと対峙出来たのだから、深雪が強いことは事実だ。ただ持続力がないから、長期戦では戦えないという弱点がある。ふたりが退出してから、はははは・・・と、笑って、「なかなか、いい組み合わせだ。さすが、黄龍の婿選びは適格だ。」 と、青竜王は微笑む。
「和をもって治める陸続には、それを相手に呑ませるだけの力強さはない。だが、背後に、あの暴れん坊と美愛が控えているとなれば、誰も異を唱えまい。」
次代の長である陸続は、父親の性格を、そっくり譲り受けた優しい気性の青年だ。確かに強さはあるが、それが表に出ることは少ない。おそらくは、父親のように、相手の言い分を了承して、互いの妥協点を探そうとするだろう。だが、それでは済まない場合もある。その時に、霆雷のような明らかにカリスマ性の高いものが、背後から睨みを利かせていれば、陸続の言い分が、そのまま通ることになる。さすがに、そういうものが必要な時に、黄龍は、そういうものを探してくると、青竜王は感心していたのだ。
「陸続当人も、それは申しておりました。私と似た性格で苦労すると思っていたから、少し楽になった、と。」
「はははは・・・確かに楽だろう。あれは、とんでもないからな。だが、あれを御し得なければならないのだが、その点はどうするかだな。」
「兄上、それこそ、今更です。霆雷は家族は守るべきものだと思っている。深雪の次に大好きなのは、陸続だそうですからね。」
「確かに、深雪と陸続は似ているな。・・・さて、主人殿、本格的に、『顔見せ』についての打ち合わせをさせていただこう。」
雑談を終えて、竜族長の顔で、青竜王が、居住まいを正す。残るふたりも、「御意」 と、頷いて、本格的な打ち合わせを始めた。
作品名:海竜王 霆雷 顔見せ1 作家名:篠義