マクリールの結婚
そうして二人、まるで事前に示し合わせていたかのようにさっさと館の方へと並んで歩いていくのを呆然と見ていた側近たちは、主が突然振り返ってそんなことを言ったので、はっと我に帰って叫び返した。
「よ、用意してあります!部屋にちゃーんと、きっちり盛装用のお召し変えを……ハルさま、見てなかったんですか」
レヴィが言うと、彼女らの主は眉間に皺を寄せて側近を見た。
「今日は朝から木の上に居たのだ。見てるわけがなかろう……まぁいい、二人ともついて来い。着替えを手伝え。グラシャルは先に行って、父上が驚いて心の臓でも止めぬよう、事前報告でもしておけ。ソラリス島の若様は、ハルディア様との御婚約を御希望です、とな」
「は?え、おい、それってどういう……」
そして言うだけ言ったその後は、もう制止も聞かずにすたすたと連れ立って館の方へと、咽るほどの緑の中を歩いていく主と青年貴族二人の後姿を見て、あっさりその場に取り残された領主の姫の側近たちは、それぞれ深い溜息をついた。
「……で?」
「うん」
「結局どうなったの?」
「えーと……多分、ルーグさまはハルさまと結婚することに決めましたってことなんじゃ……」
「やっぱそうだよねぇ……ってさっき会ったばっかりだよあの二人!え、兄上、本当なんですかそれ!?」
首をかしげながらのレヴィの言葉に、アディは悲鳴じみた声を上げて、背後で呆然としていた兄を振り仰いだ。
尋ねられたグラシャルは、うーん、と眉間に皺を寄せながら、がしがし後頭部をかきむしる。
「いや、まぁ、なぁ……世の中には物好きもいるっていうか、うん、まぁ、つまりはそういうことなんだろうなぁ」
「兄さま、それ答えになってませんわー…………」
「答えになってないって、他にどう答えろってんだ、こんなん……でもまぁ、ルーグ様がハルの旦那になろうとどうなろうと、俺たちがハルの側近であることは一生変わらんのだし、そんな深く考えることでもないんじゃねーか?」
妹に突っ込まれて、溜息をつきながらもそう零した兄に、違うかと促されて、双子は顔を見合わせて、そして。
「それもそうね?」
「うん、そうだねぇ……って、あたしたちも大概楽天的だね、まったく」
「今更それを言うな。楽天的にでもならなければ、ハルの側近など勤まらん」
「だからお前たちも余り深く考えるな」と、どこか達観したような兄の呟きに、やはり、声を押し殺して笑った。
ソラリス島の伯爵弟ルグナサドが、海原の領主一族のマクリール家に婿入りして領主の座を継ぐのは、それから四年の後のことである。
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