篠原 入院
確かに、それはそうだ。僕も、当時はマスメディアの情報しか拾えなかった。その時は、新鋭艦の艦隊が敵を撃破するものと思い込んでいた。今は、その辺りの事情も知っているが、普通の人は、なぜ、VFが勝ち抜けたのか、今もよくわからないだろう。その辺りの情報は、今も隠蔽されたままだ。だから、こういう齟齬が引き起こされることについては、納得はできる。だが、それで上司が怪我するのはおかしい。
「それで、しのさんが怪我するのはおかしいと思います。」
「これは別件。そっちのほうは、そのうち説明するよ。・・・・細野を信用してないんじゃないよ? 僕の親族関係が複雑だから説明するのが面倒なだけ。」
「つまり、発熱していて小難しい説明はしたくないと? 」
「うん。」
「・・・・わかりました。それなら、僕の勉強のほうも、しのさんの体調が戻ったらにします。」
「それぐらいは簡単なんだけどなあ。・・・・・そうだ。僕が毎日、単語をひとつ言うから調べておいで。」
「はあ? 」
「それで翌日、単語の説明を僕にしてくれればいい。間違ってたり足りなければ、それを補足してあげるよ。それぐらいの暇つぶしの相手になっておくれよ、細野。」
上司はニコニコと笑っている。まあ、確かに寝ているだけなのは暇かもしれない。
「暇つぶししないいけないくらい起きてられるんですか? しのさん。」
「午後から夕方くらいは起きてる。」
「テレビでも見てればいいのに。」
「よくわかんないから退屈なんだ。ニュースパックとか見られないようにされてるしさ。」
「そりゃそうですよ。ドラマとか見ればいいじゃないですか。」
「おもしろくない。」
「スポーツは? 」
「ルール知らない。・・・・・それなら理論のひとつでも、細野に理解させるほうが楽しい。」
「僕に理解させるのと、スポーツのルール覚えるのと、同じレペルですか? 」
「最初は、そのぐらいだよね。」
怖ろしく頭のいい上司なので、そのレベルのことになるらしい。それなら暇つぶしなのだろう。常人には理解できない頭の仕組みだ。
「わかりました。本日のお題をください。」
言い負かされてしまったので、素直にお題を貰った。とりあえず、上司の具合は悪くないようなので、僕は毎日、顔を出して暇つぶしの相手をすることにした。残りの上司は何かしている様子だが、僕の上司が、「りんさんの報復攻撃エグイから心配だなあ。」 と、漏らしていたから、そういうことらしい。