シンク・レイル#1 雪に散る
「それは、あのお嬢様の方でしょうかね。それとも――」
「〝両方〟だ」
ルードフェルドの淡々とした言葉に、ブラッシモンは再び黙って俯いた。両者の嘆息ばかりが部屋の中にわだかまる。
「あなたこそ、良かったのですか。私はあなたにも逃げてもらうつもりだったのだが」
ルードフェルドが虚空に向かって投げかければ、少し時間が経ってから、部屋に応えが響き渡る。
「私の道は潰えましょうが、首都に息子がございます。あれは野心家で食えないところがあるが、私の財などなくとも、問題なく生きて行けるでしょうからな」
「つまるところ、あなたと私は同じというわけですか」
「そうですかね。いや、そうでしょうね」
対照的にさえ見える二人は、そこで視線をかわしあって微笑みあった。笑い声はあげなかった。あげられなかった。
――ゴトリ。暖炉の薪が崩れる音がする。少しだけ、火の勢いが弱まった。
◆◇◆
作品名:シンク・レイル#1 雪に散る 作家名:幽明鏡華