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関西夫夫 豆ごはん

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まだ肌寒い季節だった。いつものように、俺はオフコンとにらめっこしていたのだが、なんか目の前が傾ぐのに気付いた。ゆらゆらと左右にゆっくり揺れる。



・・・・貧血か? メシ食ったけどな、俺・・・・・・



 ちゃんと昼飯は食ったので、貧血することはないはずや。ウィークデーやから、旦那と無茶はしてない。どっか壊れたか? と、考えていたら、突然に佐味田さんが飛び込んできた。そして、俺の部屋のテレビをつける。俺は管理職ならしいので、一部屋貰っているのだが、そこは応接セットと大型テレビも配置されている。

「みっちゃん、地震や。それもデカイぞ。」

 その後から、東川さんと嘉藤さんもやって来た。そして、三人でテレビに見入る。テレビの前にいかついおっさんが立ち並ぶと、俺のとこからは見えへんっちゅーんよ。まあ、興味もないから仕事に戻ったら、おおっという喚声で引き戻された。

「みっちゃん、ちょと見てみいっっ。ほら。」

 佐味田のおっさんが、テレビの前から退いた。画面には、白い波が映っているのだが、よく見ると、それは海岸線を越えて田んぼを驀進していた。

「え? それ、なんなん? 」

「津波や、津波。東北でえらい地震があったんや。今さっき揺れたやろ? 」

「あ、あれ、地震か・・・なんや、俺、貧血やとおもた。」

 そして、画面では津波が容赦なく建物や田んぼ、クルマ飲み込んで突き進む様子が映っていた。なるほど、地震の規模が生半可ではないらしい。何百キロも離れた、こんなとこまで揺れるぐらいや、現地はえらいことになっとるんやろう。



 そこへ電話がかかってきた。堀内からだった。生きてるか? という暢気な台詞の割りに早口やった。

「生きてるで、みんなで今、テレビ見てサボってた。」

「さよか、そらよかった。システムは異常ないねんな? 」

「あらへん。おっさんとこのほうが揺れたんちゃうんか? 」

 堀内は中部の本社にいる。あちらのほうが震源地に近いから揺れただろう。それなのに、こっちの安否確認してやがるということは、混乱してるらしい。

「揺れたけど、震度三やから大したことはない。」

「あのな、うちは、おっさんとこより西にあるから震度一や。全店のシステム確認はしとくけど、なんもあらへんと思うで。」

「また電話する。」

 やはり中部のほうが揺れているらしい。あちらは、関東に近いところまで店舗があるから、そちらの確認で忙しいやろう。また手伝いに借り出されたら厄介やなあ、と、思いつつ画面に目を移した。大きな波が船を陸へ流している。クルマがミニカーみたいに、ごろごろと転がっていく。



・・・・・・辛抱たまらんかったか? 地球・・・・・・



 自然の摂理というものがある。増えすぎた生き物は自然淘汰されて適数まで間引きされる。地球の上に、わらわらと涌いている人間が増えすぎたから、自然淘汰でもする気になったんか? と、ツッコミのひとつも入れたくなる光景が展開していた。

 たぶん、人も動物も呑み込まれているやろう。どのくらいの被害があるかわからんけど、俺には関係がないので、仕事に戻った。





 家に帰ると、気の早いあほが、非常持ち出し袋なるものを広げてた。ついでに、水とか懐中電灯とか並んでいる。どうやら買ってきたらしい。

「どあほ、そんなもん、いらんやろ。」

「備えあれば憂いなしっちゅーやないか。」

「おまえ、今、こっちも揺れたら日本沈没じゃっっ。メシは? 」

「季節先取りで豆ごはんや。」

 俺の旦那は、こういうとこは速攻だ。防災グッズは、こういう人間によって買い占められるんやろうな、と考えつつスーツを脱いだ。

「助かりたいか? 花月。」

 並んで食卓について、俺は尋ねた。食卓には春らしい豆ごはんと、菜の花の辛し味噌合え、ゴマ豆腐、わかめのおすまし、さわらの塩焼きが並んでいた。うちは、酒を飲まないので、ごはんとおつゆも並んでいる。

「うーん、助かりたいっていうよりは、おまえをなんとかせなあかんと思うから、が正解やな。」

 ばくっと豆ごはんを頬張って、俺の旦那は笑っている。まあ、そやろ。俺は助かるつもりも逃げる根性もない人間なので、生かしておくとなれば、旦那が手をかけるしかない。

「せやけど、津波なんかきたら、どうにもならへんで? テレビで見たけど、あれはあかん。下手したらクルマより早い。」

「ああ、俺も見たわ。」

「地球様のお怒りじゃ。鎮めるのに人柱が、えらいいるんやろう。・・・・・俺、面倒やから人柱でええわ。おまえ、俺をほって逃げや? 花月。」

 自然淘汰しなければならない人間の数というのは、どれほどのもんか、わからへんが、死んだほうが楽なので、俺はそちらを選択したいと思った。花月は、俺がいなくなったら逃げられる。生存率50パーセントなんてことはあらへんから助かるやろう。

「どあほ、なんでほっていかなあかんねん。ちゃんと安全なとこまで、おまえ引っ張って逃げるわい。おまえ、俺の生き甲斐やねんぞ? 勝手に死んでもろては困るやんけ。」

「しょっぼい生き甲斐やなあ、花月。もうちょっとええ生き甲斐探ししーや? 」

「どこがしょっぼいんじゃ? こんな手のかかる可愛い生き物が、もう一匹おったら、俺、ハーレムになるやんけ。・・・・・あ、それもええかもな。あはははは。」

 本気で、そう言うあほな旦那に、俺は呆れつつ笑い出した。まあ、俺を生かしてくれてるのは、旦那やから、そういう意味では俺は勝手には死ねへんのかもしれへん。

「おまえ、ほんまにあほやろ? ハーレムて・・・・世話が二倍でしんどいとは思わへんのか? 」

「その代わり、サービスも二倍。ご奉仕されまくりの3ピーっていうのも、ちょっとそそる。」

「ご奉仕? おまえの妄想っておかしないか? やんの俺やで? 」

「おまえが、せっせとご奉仕してくれるん想像したら、めっちゃ燃えるんですが? 水都さん。」

「うわぁー痛いわー、自分の旦那やなかったら、保健所へ引き取ってもらうわー。」

「保健所って・・・・俺は犬か? 」

「まあ、サルのほうが近いやろな。」

「おまえ、鶏がらのくせして、よう、そんなこと言うな? 」

「犬と鶏がらって、ちょうどええ組み合わせやで? 食われる鶏がら、食う犬。」

 うちの家庭事情なるものを、よく現している。それを、ふたりして笑った。そして、俺の旦那は、ちと沈黙して俺を見た。

「まんまやんけ。・・・・・水都、人柱やったら一緒になったるからな。」

「まあなあ、家で地震きたら、一緒に埋もれるか流されるわな。」

「そういうこっちゃ。ほんで、ちょっと俺から提案。」

「ん? 」

「しばらく毎月、寄付しようと思うんや。ええか? 額は、小額やけど、一年くらい続けたいと思ってんねん。」

 お人よしの旦那は、地震の映像で心を痛めたのだろう。別に、うちはツインカムで働いているので、程ほどの生活ができている。だから、したいならやればええ。俺はやらんけどな。人間なんて、どうでもええと思っている俺には、そんな気持ちは涌いてこないからだ。

「やったらええがな。」

「おおきに。」
作品名:関西夫夫 豆ごはん 作家名:篠義