除霊師~藤間道久の物語 1・藤間道久(1
ということじゃから気をつけてくれ。儂は先に外で待っておるよ。」
「そうしてください。すぐに終わらせます。」
そう言って社長は外に出て行った。
本当はここにも来て欲しくはなかったが、責任、と言われてしまっては
断れる訳もなくここまで来させてしまった。
だが、これ以上先には行かせる訳には行かなかった。
この階段の先の空気は明らかにここまでとは違うものだ。
踏み入れたらそのまま彼が霊の攻撃対象となっていただろう。
さあ、ここからは除霊師としての仕事開始だ。
新しく付けられた義手の力を図るいい機会でもある。
慎重に霊感センサーを張り巡らせながら、階段を一歩ずつ上がっていく。
途中、階ごとの折り返しの踊り場があり、その踊り場で足を止め上の階を見上げ件の階を見つめると、
明らかな場の澱みを感じることが出来た。
残りの半分の階段を昇り切ると、ボロボロになったフロアが見え、
奥に行く程にその澱みが濃くなっているようだ。
だが、少なくとも今見える範囲に幽霊らしきものは見えなかった。
しかし、何かがいることは間違いない。
こういう時に自分の霊視のレベルの低さが恨めしくなるが、今そんなことを言っても仕方ない。
今やれることを全力でやるだけだ。
右腕の義手に霊力を込め全体に霊力を循環させ、何が起きてもいいように呼吸を整え、
現場のフロアに足を踏み入れると、全身を包む瘴気が段々と濃くなってゆく。
そしてフロアを見渡すと、その真ん中には一匹の犬がいた。
全身黒毛の雑種のようだが、こちらから見えるそいつの眼は大人しい雰囲気を醸し出している。
あいつに教えて貰った幽霊の善悪の見極めは今のところ間違いはなくとても助かっている。
その見極め方法からすれば、あの幽霊犬は俺に危害を加える事はないだろう。
何故ならその見極め以前に俺と完全に眼が合っているにも関わらず、襲い掛かってくる気配はない。
それどころか、何の警戒もなく一歩ずつ近付いてきて、俺の右脚に体を摺り寄せていた。
その感覚は、やはり実体のない幽霊のものであり、いつも感じるものであった。
俺は右膝を地面に付け、左手で頭を撫でてやると、
少し驚いたような感情を一瞬出したが、すぐにそれを受け入れていた。
「お前がここで人を喰ったのか?」
一瞬とまどったような動きを見せたが、頭を縦に振った。
作品名:除霊師~藤間道久の物語 1・藤間道久(1 作家名:ガチャタラ