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銀の絆

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 麻子は典子を挑発するように笑っている。
「柚子はあたしを愛してる。貴女の指図は受けないよ、先生」
「愛?貴女はどうなの、麻子ちゃん!」
 典子は恫喝するように言った。
「貴女は愛してる人をこんな風に痛めつけるの?それが貴女の愛だって言うの?」
「そうだよ!」
 麻子が吼えた。
「それが母さんの愛情表現だった!あたしは同じことを柚子にしているだけだ!
 柚子だってあたしと一緒で、それに耐えてる!耐えることが愛なんだ!」
「それは違う!」
「違わないよ!」
 麻子は地団駄を踏むように足を踏み鳴らした。
「とにかくあんたにできることなんて何もないんだ!――柚子、帰ろう!」
 ぐいと引かれて、柚子と麻子は典子の横をすり抜けていった。
 典子は引きとめかけて、やめる。
 確かに自分にできることなど何もないのかもしれない。
 麻子を救うことなどできないのかもしれない。
「麻子ちゃん!」
 それでも。
「水曜日、待ってる。私は待ってる」
 向き合うことで、何かが変わるかもしれないから。
 麻子は振り返らなかったが、柚子は振り返った。とても、不安げな目をした少女だと思った。
 彼女は迷っている。
 何に?
 分からない。
 だが迷っているのだ。
 あの少女と向き合いたい。彼女が何故暴力と支配を受け入れているのか、その闇を知りたい。
 知ることによって、何かが変わるかもしれない。
 そうだ。
 麻子も柚子も、変わるかもしれない。
 彼女たちは迷っている。
 得がたいものを追い続けて、道を誤ってしまったけれど。
 正しい道がどこにあるのかなんて、それを示す地図はどこにもないけれど。
 それでも、放ってはおけない。
 こんな風に感情移入することは間違っているのかもしれない。
 自分は引き返すべきなのかもしれない。
 だがそれは大人として正しい姿だろうか。
 否、違う。
 自分はそんな大人になりたくてここにいるわけではない筈だ。
 典子は気合を入れなおして、静かに、駅へと向かって歩いていった。
作品名:銀の絆 作家名:ハル